tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『叫びと祈り』梓崎優

叫びと祈り (創元推理文庫)

叫びと祈り (創元推理文庫)


砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第5回ミステリーズ!新人賞受賞作を巻頭に据え、美しいラストまで突き進む驚異の連作推理。各種年末ミステリ・ランキングの上位を席捲、本屋大賞にノミネートされるなど破格の評価を受けた大型新人のデビュー作。

新年最初の読書は、初めて読む作家の作品になりました。
創元社ミステリーズ!新人賞を受賞し、2011年の本屋大賞でも6位に入賞したという、新人のデビュー作とは思えないほどの高い評価を受けた連作短編集です。


海外の動向を分析する雑誌を発行する会社に勤めている関係で、世界各国を取材で訪れている斉木。
彼が取材先で出遭った事件を描く短編が5編収められています。
サハラ砂漠を舞台に起こった殺人事件を描く「砂漠を走る船の道」。
斉木の友人がスペインで遭遇したある不思議なできごとの謎を解く「白い巨人(ギガンテ・ブランコ)」。
ロシア正教の修道院における「朽ちない遺体」を巡る物語、「凍れるルーシー」。
アマゾンの奥地に集落を持つ少数民族が直面した悲劇を描く「叫び」
そして東南アジアのある島に存在する「ゴア・ドア(祈りの洞窟)」の名前の由来に迫る「祈り」。


5つの短編は舞台もテイストもすべて異なっています。
本格ミステリの側面が一番強いのは「砂漠を走る船の道」で、この作品がミステリーズ!新人賞受賞作です。
砂漠のど真ん中を行くキャラバンの中で起こる殺人という、舞台設定を最大限に活かしたクローズド・サークルの作り方が面白いと思いました。
日本が舞台のミステリではありえない状況、そしてこれまた日本人の感覚ではありえない驚くべき動機。
それだけかと思いきやさらにもう一つ仕掛けが用意されていたのにも驚きました。
「白い巨人」はどちらかというと日常ミステリに近いかもしれません。
「凍れるルーシー」は一応殺人を扱うミステリですが、ホラーっぽいところがあり、好みが分かれそうです。
「叫び」は「砂漠を走る船の道」同様、日本が舞台ではありえないクローズド・サークルと殺人の動機が描かれます。
そしてこれら4作品を踏まえて書かれたのが「祈り」で、ミステリとしてというよりは、展開の意外さに驚きました。


ミステリというのは読者の先入観や思い込みを覆すことによって読者に驚きを与えるものだと思っていますが、そういう意味ではこの作品はまさにミステリです。
日本に住む日本人としての価値観を覆されるようなストーリーが続きます。
世界には本当にさまざまな価値観があって、物事の見方はその人の生まれ育った国や文化や民族によって大きく変わるのだということを思い知らされるようでした。
各話の舞台は必ずしも実在の都市や集落というわけではないようですが、だからと言ってリアリティがないわけではありません。
広い世界のどこかでは、こうした日本人の感覚では考え付きもしないような事件も起こりうるのだろうと思わせる説得力がありました。


文章がまどろっこしい感じで多少読みにくさもありましたが、発想や着眼点が非常に個性的で面白く、今後の活躍が期待できそうな作家さんだと思いました。
次作『リバーサイド・チルドレン』も海外を舞台にした長編ミステリだとのことで、ぜひ読んでみたいと思います。
☆4つ。