tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『鴨川ホルモー』万城目学

鴨川ホルモー (角川文庫)

鴨川ホルモー (角川文庫)


このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも華麗な女(鼻)でした。このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。祇園祭宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。恋に、戦に、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。京都の街に巻き起こる、疾風怒涛の狂乱絵巻。都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。前代未聞の娯楽大作、碁盤の目をした夢芝居。「鴨川ホルモー」ここにあり。

森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』と並ぶ馬鹿馬鹿しさ満載の京大青春小説です。
私自身が子どもの頃京都に住んでいたこと、京都の大学に通っていたことがあって、やっぱり京都を舞台にした作品は好きだなぁ。
まず目次のページのイラストに感動。
実はつい最近もこのイラストの場所に行ったのでした。
そこを「鴨川デルタ」と呼ぶことは知らなかったんですが。
三条京阪土下座像前」なんていう京都の学生にはおなじみの(というか京都以外の人はまず知らないだろう)場所がさりげなく登場しているのも心憎いです。


そしてやっぱり「京大らしさ」が存分に発揮されているのがいいですね。
いやどういうのが「京大らしい」のかと訊かれても困るのですが、ちょっと(かなり?)ヘンで垢抜けなくて浮世離れしている…ようなイメージが京大生にはあるんですよね。
本書によると「イカキョー」(いかにも京大生)と呼ぶらしいですが(私は「イカハン」(いかにも阪大生)しか知りませんでした)。
さだまさしを心の友とし、一目惚れした女子にさだまさしの魅力を延々語ってしまう主人公・安倍、ファッションセンス最悪のTOEIC980点の帰国子女・高村、大木凡人にそっくりな髪型とめがね姿の楠木ふみ…個性豊かな濃ゆい登場人物ばかりですが、京大ならこんな人もいるかもしれないと思わせるところが上手いです。
そして、「ホルモー」という謎の競技も、舞台が京都であり、京大であるからこそうまくはまっています。
「ホルモー」とは、鬼や式神を率いて戦わせる合戦絵巻のような競技…ってこれだけでは何のことやらよく分からないかもしれませんが、分からなければこの作品を読んでみてとしか言えません。
到底ありえそうもないこの不思議な競技や数々の儀式も、京都ならありうるかもしれない、京大生なら大真面目にやってしまうかもしれない、そう思ってしまうのです。
そんな場所や大学、日本に他にあるでしょうか。
ちなみにこの「ホルモー」という競技は4大学対抗戦で行われることになっていて、京大以外の3大学は立命館大学京都産業大学龍谷大学なのですが、これらの大学の選び方も上手いなと思います。
この3大学なら京大と一緒にこんなことをやっていてもおかしくないという感じがするんですよね。
間違っても同志社大学は「ホルモー」なんてやらないと断言できます(笑)


始終馬鹿馬鹿しいノリで、思わず笑ってしまう場面も確かにありましたが、予想していたよりは真面目な部分も多くて、爽やかな青春小説の側面も強いと思いました。
登場人物たちの恋模様なんて青春していていいですねぇ。
結末もすがすがしくて、思った以上に気持ちよく読み終えることができました。
でも私個人的には『夜は短し歩けよ乙女』の方が好きかな。
文体に癖がない分『鴨川ホルモー』の方が読みやすいのですが、荒唐無稽な突き抜けぶりは『夜は〜』の方が上。
『鴨川〜』は最後がきれいに終わりすぎてちょっと物足りない感じがしました。
もっと徹底的に馬鹿馬鹿しい方がよかったな。
でも面白かったです。
ただ、京都に住んでいる(住んでいた)人か京都の大学に通っていた人でないとよく分からないネタが多いかも…。
☆4つ。




♪本日のタイトル:スピッツ「青春生き残りゲーム」より