tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『淋しい狩人』宮部みゆき

淋しい狩人 (新潮文庫)

淋しい狩人 (新潮文庫)


東京下町、荒川土手下にある小さな共同ビルの一階に店を構える田辺書店。
店主のイワさんと孫の稔で切り盛りするごくありふれた古書店だ。
しかし、この本屋を舞台に様々な事件が繰り広げられる。
平凡なOLが電車の網棚から手にした本に挾まれていた名刺。
父親の遺品の中から出てきた数百冊の同じ本。
本をきっかけに起こる謎をイワさんと稔が解いていく。
ブッキッシュな連作短編集。

宮部みゆきさんの『淋しい狩人』を読了しました。
これ、たぶん学生時代に一度読んだと思うんですが、さっぱり内容を覚えていませんでした…(苦笑)。


しかし、だからと言って作品に魅力がないというわけでは決してありません。
むしろ、こういう短編でこそ宮部作品の魅力は存分に味わえると言えるでしょう。
舞台は東京の下町。
「田辺書店」という小さな古書店を営む「イワさん」と、その孫で高校生の稔を中心人物に据え、古書店で起こるさまざまな出来事を連作短編集という形で描いています。


とにかく宮部みゆきさんは老人と少年を書かせたら右に出るものはないでしょう。
こんな人たちが身近にいたらいいな、と思わせてくれます。
また、東京の下町が舞台というのも宮部さんらしいですね。
老人・少年・下町。
この3つの要素が宮部みゆきさんの作品を、味わい深く、ほんわかあたたかいものにしているのです。


ですが、描いている内容は決してあたたかいものばかりではありません。
『詫びない月日』における、戦争が残した悲劇。
『うそつき喇叭』における、胸を締め付けられるような虐待の真実。
『歪んだ鏡』における、男性社会を生きる女性に突きつけられる甘くはない現実。
そして、表題作『淋しい狩人』における愚かな殺人者の姿。
どれもこれも、痛くて悲しくてやるせない。
特に『うそつき喇叭』は、子どもに対する虐待事件が世間をにぎわせている昨今だけに、現実味を持って胸に迫ってきました。


それでも、宮部みゆきさんが作り出す世界は、やっぱりあたたかいのです。
私たちが生きていくには、辛かったり、悲しかったりする現実に何度もぶつからなくてはなりません。
しかし、宮部作品に登場する老人や少年の真面目さや素直さやひたむきさといったものが、そのような厳しい現実の痛みを和らげ、私たちにそれを乗り越えていく力を与えてくれます。
だから、どんなにシビアな事柄が題材にされていても、私たちは何度でも宮部作品を手にとってしまうのです。
本書はそんな宮部マジックを存分に発揮した良作です。