- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/06/28
- メディア: 文庫
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時は元禄、東北の小藩の山村が、一夜にして壊滅した。隣り合い、いがみ合う二藩の思惑が交錯する地で起きた厄災。永津野藩主の側近を務める曽谷弾正の妹・朱音は、村から逃げ延びた少年を助けるが、語られた真相は想像を絶するものだった…。太平の世にあっても常に争いの火種を抱える人びと。その人間が生み出した「悪」に対し、民草はいかに立ち向かうのか。
本作は朝日新聞連載時に読んでいたので、今回は再読でした。
ですが初読がかなり前なので、物語の細かな部分はすっかり忘れ、恐ろしい怪物が人を襲う話だということと、切なく悲しい結末ばかりを覚えていたのですが、文庫化を機にじっくりと再読してみて、こんなに凄惨な話だったかとちょっとびっくりしてしまいました。
ホラーっぽさもある作品だとは認識していたのですが、思った以上に残虐で恐ろしい話でした。
時は生類憐みの令で有名な徳川綱吉の治世、舞台は現在の福島県の辺りにある小藩の村々です。
山々に囲まれた小さな村に突然現れた謎の怪物。
トカゲのようでもあり蛇のようでもある奇妙なその生物は、長い舌や尻尾で人間を捕らえ、食べてしまいます。
ひとつの村を壊滅させた怪物は、腹がすくとまた次の村へ。
人々は懸命に逃げ、戦おうとしますが――。
想像すると気分が悪くなりそうな、かなり残酷な場面も多く、数ある宮部さんの作品の中でも一番恐怖感を煽られる作品ではないかと思います。
また、非常に映像的な作品でもあります。
怪物が人々を襲う場面は、パニック映画のような臨場感があり、怪物の描写は怪獣映画やSF映画も想起させます。
この辺りは宮部さんの趣味が強く出ていると見ていいでしょうか。
映像が容易に頭の中に浮かぶからこそ、恐ろしさにリアリティがあります。
そんな怖い物語の中で、ほっとさせられるのが登場人物たちの魅力です。
良くも悪くも直情的な小姓の小日向直弥、怪物に襲われた村から辛くも生還した勇敢な少年・蓑吉、怪しげな旅の絵師・菊地圓秀、飄々とした雰囲気の御家人・榊田宗栄などなど、読者が感情移入できる人物がたくさん登場しますが、本作の主人公・朱音が何と言っても一番魅力的です。
小藩とはいえ藩主の側近である曽谷弾正の双子の妹であり、「小台さま」と呼ばれる高い身分でありながら偉ぶることもなく、勇気があって、優しくて、強くて、美しい女性。
全宮部作品で最高のヒロインといっても差し支えないくらいだと思います。
もちろん、脇役に至るまで丁寧にひとりひとりの人物を描き出す宮部さんの巧みさは本作でもしっかり発揮されていて、期待を裏切られることはありません。
恐ろしい怪物の存在感が大きな作品ではあるのですが、それでも本作の主役は人間です。
多少ネタバレ気味になりますが、怪物は人間の業が生み出したものでした。
そして、そんな怪物に対抗し、平和を取り戻すのも人間。
絶望と希望、どちらも生み出せるのが人間というものであり、愚かな過ちを犯して打ちのめされて、悲嘆に暮れて反省して再び立ち上がって……というのを繰り返してきたのが人間の歴史なのだなと再認識させられました。
終盤は胸を衝かれるような場面や展開が多く、読み終わった時には胸がいっぱいになりました。
小日向直弥が最後に語る決意が一番心に残っています。
そして読了後に帯を見て、「NHKドラマ化決定」と書かれているのに気付き驚愕。
解説で樋口真嗣さんが書かれているような特撮系になるのでしょうか?
作中の凄惨なシーンなどはそのまま実写化されたら私などはとても見ていられないドラマになってしまいそうですが、どうなるのかな。
気になるところですが、続報を待ちたいと思います。
☆4つ。