tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『真夏の方程式』東野圭吾

真夏の方程式 (文春文庫)

真夏の方程式 (文春文庫)


夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。一方、仕事で訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もう1人の宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。

現在月9ドラマ放送中のガリレオシリーズ。
容疑者Xの献身』『聖女の救済』に続く長編がこの『真夏の方程式』です。
謎解きはもちろん、ノスタルジーや湯川の人情的な側面も感じられる、盛りだくさんな物語でした。


小学校が夏休みに入り、両親が仕事で忙しいために、親戚の川畑家が経営する旅館に預けられることになった恭平は、その旅館で「博士」こと湯川と出会います。
湯川は旅館のある町・玻璃ヶ浦の海底熱水鉱床開発計画に物理学者として関わっていたのでした。
そして、恭平と湯川と時を同じくして旅館に宿泊していた元刑事の男が、転落死体となって発見されます。
当初は事故と見られていましたが、湯川はあることに気付き、警視庁の草薙や内海と連絡を取り合って、密かに川畑家の親子3人について調べ始めます。
その結果分かったのは、川畑一家の意外な過去でした――。


夏休み。
美しい海のある、小さな町。
まずその舞台設定がいいですね。
非常にいい雰囲気で、郷愁を誘われます。
そして、その小さな海辺の町で出会った少年・恭平と物理学者・湯川。
あれ、湯川って子ども嫌いだったんじゃなかったっけ?というのはシリーズの愛読者としてはツッコミどころではありますが、恭平とのやり取りや交流が微笑ましくて、次第にそんなことも忘れて引き込まれていきました。
特に湯川が恭平のことを「偏屈な子供」と言うところは思わず笑ってしまいました。
湯川先生、あんまり人の事言えないんじゃないの??(笑)


そんな微笑ましくいい雰囲気で始まる物語はやがて意外な展開を見せていきます。
宿泊客の転落死に関連して「何か」に気付いたらしい湯川ですが、その「何か」の正体がなかなか分からず、気になってどんどん読み進めていくうちに、旅館を経営する川畑家の親子3人に関して、少しずつ悲しい過去が明らかになっていきます。
そして、最終盤になってようやく「真犯人」が明らかになった時には驚かされました。
同時に、湯川がなかなか真相を明らかにしようとしなかった理由はここにあったのか、と腑に落ちました。
容疑者Xの献身』では、真犯人を救うためにこそ、真相を暴いた湯川。
ですが、今回はそれとは全く逆に、真犯人を守りたいからこそ真相を限られた人にしか明かさなかった。
その対比が面白いなと思いました。
ラストで湯川が恭平にかける言葉にはなかなか感動させられました。
湯川ってこんなにやさしい人だったかな、と一瞬思いましたが、作中でも触れられている通り、『容疑者Xの献身』の事件を経験したからこそ得られたやさしさなのかもしれない、とも思いました。
勉強嫌いの恭平に、答えをそのまま教えるのではなくて、考え方の道筋を丁寧に教えてやっていた湯川。
人は何のために学ぶのか。
それは、人生において遭遇する様々な謎を解いて、それによって明らかになった真実を受け止め、乗り越えていく力を身に付けるためなのでしょう。
湯川の恭平を思いやる気持ちが、じんと心に沁みました。


愛する人のために犯される罪、そして秘密と贖罪を背負って生きてゆく重さと苦しみ。
感動的で、読み応えも十分でしたが、『容疑者Xの献身』とテーマ的には似ていたため、インパクトに欠けていたのが少し残念です。
それでも十分面白く、楽しく読めたのは、さすが東野さんの看板シリーズと言えるでしょう。
☆4つ。