tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ハロー・グッドバイ 東京バンドワゴン』小路幸也


「LOVE」は、必ず、めぐり逢う――
思わぬ場所での再会、知られざる過去との遭遇、甘酸っぱい恋の行方、切ないけれど前向きな旅立ち……。今年も賑やかで温かな、大人気シリーズ第17弾!
田町家が取り壊され増谷家・会沢家として生まれ変わろうとするなか、ついに〈かふぇ あさん〉の夜営業が始まる。見慣れないお客さんとともに、不思議な事件も舞い込み……。そして、藍子とマードックのイギリス生活にも大きな転機が。さまざまな変化や試みに、堀田家は「LOVE」を胸に挑んでいく。

毎年春のお楽しみ、「東京バンドワゴン」シリーズの17作目です。
長期シリーズはどうしてもマンネリ化が避けられないものですが、このシリーズはそのマンネリ部分も愛すべきお約束として逆手に取っているようなところがあります。
そして、「ドラえもん」や「サザエさん」などとは違って毎年登場人物たちも年をとっていく設定なので、基本的な物語のかたちは変わらなくても、毎年少しずつ変化は起こっており、だからこそ飽きずに読み続けられるのです。


いつものとおり、春夏秋冬の4つの物語で構成されています。
春の章では、堀田家の古い日本家屋に隠されたとある秘密が明らかになります。
さすがは築80年にもなろうかという歴史ある家屋だけあって、そこに長らく住んでいる人々でさえ知らない秘密があるというのが冒険心を掻き立てられてなんともわくわくしますね。
現実に堀田家があったなら、ぜひお宅訪問して探検してみたいものです。
まだまだ明らかになっていないあれやこれやが堀田家には人知れず眠っているのでは?と思うと、シリーズの今後からも目が離せません。
そして夏の章ではカフェに変化が。
古本屋の隣でカフェも営んでいる堀田家ですが、花陽とその親友の和ちゃんのたっての希望で、夜営業を始めることになりました。
医大生として勉学に忙しい和ちゃんがアルバイトに入れる時間を増やしたいというのが一番の理由でしたが、実際に夜の営業を始めてみると、予想以上にお客さんが入って売り上げが大きく伸びることに。
家族やその周りの人々の都合とお客さんの需要が一致するという、商売として理想的で、なおかつ堀田家らしい展開でもあります。
そのカフェで起こった不思議でちょっと不気味な出来事、そしてその結末も印象的でした。
東京バンドワゴン」シリーズにしてはちょっとブラックな味わいも新鮮でよかったです。


そして、本作の中でいちばんこのシリーズらしい物語であり、それゆえに一番のお気に入りになったのが秋の章でした。
春の章で古本屋の客として登場した、若くて美しい男子学生さん。
その人物がある日カフェに置き忘れていったクリアファイルの中の紙に書かれた文章は、和ちゃんが幼い頃に祖母から聞かされた童話そのものでした。
和ちゃんはその童話を祖母のオリジナルだと思っていたので、いったいなぜ親族でもない他人が知っているのかという疑問が生じます。
その童話の正体も、男子学生の正体も、堀田家の優しく思慮深い人々の手によってそっと明らかにされていきます。
人の縁も、物語の縁も、なんとも不思議なものだなと思わされます。
思いがけない人と人との結びつきはこれまで何度も本シリーズで描かれてきたものであり、シリーズとして大事なテーマだということがこの章からも見て取れました。
また、男子学生が語る淡い恋心がこれぞ青春という感じでたまりません。
恋の障壁になっていたある事情も最後にきちんと解消され、もしかして今後何か発展があるかもと期待させられます。
そんな甘酸っぱい希望に満ちた話の後、最後の冬の章では一転してある別れが描かれます。
そしてその別れの後には、次の春に堀田家に起こる変化が示唆され、ある意味次巻予告となっているのが心憎いです。
これは次も必ず読まなければならない、という気にさせられて、そういうところがこのシリーズはうまいんだよな、と改めて感心しました。


前巻は番外編で、語り手のサチさんが研人や我南人にくっついてロンドンまで出かけて行ったのですが、そこで出会った人物が再登場しているのもよかったです。
しかもその人物が次巻以降で来日して堀田家を訪れるかもしれないという楽しみも生まれました。
こうして今後につながる種がせっせとまかれているのが、これからも長くシリーズを続けていきますよという宣言のようでファンとしては何よりうれしいですね。
来年の春も楽しみです。
☆4つ。




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