tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ドミノin上海』恩田陸


「『蝙蝠』が上海に入った」。豫園からほど近い路地裏の骨董品店に緊張が走った。門外不出のお宝が闇のルートで輸入されたのだ。虎視眈々と狙う店主だが、なぜか問題の品は、人気急騰中のホテルの厨房に流れ着いていた……。かつて東京駅で数奇な運命を共にした面々に、一癖も二癖もある人物たち、さらには動物園脱出を目論むパンダも加わって、再び運命のドミノが倒れ始める! 予測不可能、爆笑必至のパニックコメディの金字塔!!

東京駅を舞台にドミノ倒しのようにさまざまな出来事がつながって大騒動に発展していく『ドミノ』に続編が出ました。
それがこの『ドミノin上海』。
タイトル通り、今度の舞台は上海です。
前作が刊行されたのはかなり前 (角川文庫版だと2004年のようです) なので、まさか今になって続編が出るとは思いませんでしたが、『ドミノ』はかなり面白かった記憶が残っていたので、続編も迷わず手に取りました。


さすがに前作を読んでから時間が経ちすぎて登場人物のことなど細かいことは忘れてしまっていましたが、前作に登場して今回も再登場している人物がいるので前作と続けて読んでも楽しめるし、本作だけ読んだとしても独立した作品として十分楽しめます。
舞台は上海ということで、現地人はもちろん、映画撮影に来ているアメリカ人や、観光を楽しむ日本人など、国際化しているのが今回の特徴でしょうか。
とはいえ登場人物は個性がしっかり描き分けられていて、名前も覚えやすいので混乱することはありませんでした。
さらに本作の特徴は人間ばかりがドミノ倒しを引き起こすわけではないということ。
上海動物公園で飼育されている、脱走癖のあるアウトローパンダなんかはもうこの設定だけで笑えますし、アメリカのホラー映画監督が溺愛するペットのイグアナだとか、やたら執念深く脱走パンダを追跡するダックスフントといった動物たちも大活躍します。
しかもイグアナに至っては幽霊としての登場です。
恩田さんはファンタジー作品も多く書かれていますが、本作は同じ非現実を描いていてもファンタジーというよりはコメディー、もっと言うならギャグマンガに近いかもしれません。


20人を超える大勢の人物が登場して、物語はそれぞれの人物にあわせて別々に動いていくのですが、途中までバラバラだった物語が終盤の一点に向かって徐々に集束していくさまが圧巻です。
非常に貴重なものである「玉 (ぎょく)」と呼ばれるお宝の行方を追う、というのが物語の核になっていて、その部分を意識して読んでいれば話を見失うことはありません。
一見すると玉とは何の縁もゆかりもない人物たちが、ひょんなことから玉をめぐる騒動に巻き込まれていく様子を楽しめます。
最終的に誰が玉を手にすることになるのか、ハラハラしながら読み進めましたが、結末は私としては少し予想外のものでした。
おお、そっちに行くのか、と。
そして、騒動が終わった後の後日談まで描かれているのがとてもうれしかったです。
動物園から脱走したアウトローパンダとその飼育員に関する後日談なのですが、なんだかこの1頭と1人を主人公にしてもう1作書けそうな雰囲気があります。
恩田さん、ぜひどうでしょうか?
と、続編を期待してしまうくらい、本作も楽しいドタバタぶりでした。


こんなふうに頭を空っぽにして何も考えずに楽しめる作品を読んだのは久しぶりかもしれません。
社会的な問題についてあれこれ考えさせられる作品も好きですが、こういうとことんエンタメに徹した作品というのもいいですよね。
ああ楽しかった、とすっきり気持ちよく読み終えられました。
☆4つ。




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