tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『未来』湊かなえ


「こんにちは、章子。私は20年後のあなた、30歳の章子です。あなたはきっと、これはだれかのイタズラではないかと思っているはず。だけど、これは本物の未来からの手紙なのです」
ある日突然、少女に届いた一通の手紙──。
家にも学校にも居場所のない、追い詰められた子どもたちに待つ未来とは!?
デビュー作『告白』から10年、湊ワールドの集大成となる長編ミステリー、待望の文庫化!!

湊かなえさんの作家デビュー10周年を記念して書かれた作品です。
イヤミスの女王」などと評される湊さんですが、本作にもイヤミスっぽいところはあるかもしれません。
人間の嫌な部分、醜い部分を、「これでもか」というほどに描いているのは確かです。
けれども、それ以上に希望が感じられる物語でもありました。


ある日、小学生の少女・章子 (あきこ) のもとに、「20年後の自分」を名乗る人物から手紙が届きます。
未来の自分から手紙が届く――どこかで聞いたことのあるような設定なので、この比較的ありがちな設定を湊さんはどう料理するのかに興味を持って読みました。
物語の前半は、手紙をくれた未来の自分に対して章子が書いたいくつもの返事の手紙で構成されています。
未来へ手紙を送る方法がわからないので一方的に書かれるだけのその返信は、最初のうちこそ明るいトーンで学校生活のことなどが綴られていくものの、少しずつ学校生活にも家庭生活にも暗雲が漂い始め、ついにはあるひとつの大きな決断を下すことになります。
学校でのいじめ、母親の精神的な病、母と再婚した男からの暴力……章子に襲い掛かる試練の数々は、あまりにひどいものばかりで、正直に言って読んでいて気持ちのよいものではありません。
もうやめてくれ、と叫びだしたくなってしまいますが、章子はそれでも友達の助けを借りながら懸命に生きていきます。
その姿に何よりも胸が詰まりました。


そして後半は前半に登場した3人の人物の語りによるエピソード3つと、章子の視点に戻る終章で構成されています。
これら3つのエピソードも、前半の章子の話と同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に、凄惨な展開が詰め込まれています。
いじめ、貧困、虐待といった、子どもを苦しめる要素がてんこ盛りでつらい気持ちになる上に、本当は子どもを守るべき親や教師といった大人たちの歪みや無責任さや役に立たなさにイライラまで感じてしまいました。
えげつないくらいに救いのない状況に、さすがにこれはフィクションといえども盛り込みすぎなのではとも感じられるのですが、子どもが大人によって苦しめられていたり、周囲に頼ることのできる大人がいなくて劣悪な環境から抜け出せない子どもたちがいたりするのは、悲しいことに現実でしょう。
自分の周りではそんな悲惨な目に遭っている子どもはいないと、ほとんどの大人はそう信じて疑わないのではないでしょうか。
けれどももしかしたら……という想像力を持つことが大事なのかもしれません。
実際、子どもの貧困は増えていると聞きます。
たとえ自分の周りでそのような話を聞かなかったとしても、大人として、この世界に苦しんでいる子どもたちがいるという現実から目を背けてはならないのです。
本作に登場する大人の中にも、悪い人間ばかりではなく、子どもに温かい救いの手を差し伸べようとする人たちもいます。
自分はそちら側でありたいと強く願うとともに、ラストシーンでの章子の叫びを、助けを求める声を、ちゃんと聴いてくれる大人が現れることを祈らずにはいられませんでした。


子どもは国の未来そのもの。
だからこそ、子どもたちがみな、明るい未来への希望を持てるようにしなくてはならない。
苦しみの中にある子どもたちを救わなければならない。
子どもを取り巻く問題が山積している今だからこそ、読むべき作品です。
☆4つ。