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『宿命と真実の炎』貫井徳郎

宿命と真実の炎 (幻冬舎文庫)

宿命と真実の炎 (幻冬舎文庫)


幼き日に、警察に運命を狂わされた誠也とレイ。大人になった二人は、彼らへの復讐を始める。警察官の連続死に翻弄される捜査本部の女性刑事・高城理那は、かつて“名探偵”と呼ばれた元刑事の存在を気にしていた。彼だったらどう推理するのか―。人生を懸けた復讐劇がたどりつく無慈悲な結末。最後の1ページまで目が離せない大傑作ミステリ。山本周五郎賞受賞作『後悔と真実の色』続編。

前作『後悔と真実の色』が面白かったので、本作も必ず読むと決めていました。
自分のブログの過去記事を見返してみると前作から8年も経っていましたが、意外と記憶が残っていて非常に懐かしい思いで読むことができました。
前作に劣らないボリュームと読み応えでしっかり期待に応えてくれる作品です。


一見まったく関連がないように思われた警察官の連続死に意外なつながりを見出し、バラバラに見えた事象が実は連続殺人事件ではないかと気づいて、独自に捜査を進める女性刑事・高城理那が本作の主人公です。
彼女が助けを求める相手が、『後悔と真実の色』であり得ないような転落人生を見せて読者を驚かせた元刑事の西條。
前作の結末を思うと西條のその後は気にならずにはいられませんから、彼の再登場はうれしかったですね。
「名探偵」とまで呼ばれた西條の推理力は、警察を離れてまったく違う職に就いても変わっていません。
理那に重要な助言をし、理那は彼の示唆をヒントに事件の真相に迫っていきます。
真面目で正義感が強いものの、それゆえに頑なで融通が効かないところのある理那が、捜査を通していい意味で柔軟になり成長していく過程も読み応えがありましたが、西條が自らの新たな生き方を見出していくさまもなかなか感動的でした。
人間はどんなにどん底の状態になっても、そこから這い上がることは可能だし、生きる道はひとつではないのだというような希望に満ちたメッセージが伝わってきます。
救いがなく後味の悪い結末が多い貫井作品の中では、かなり明るいトーンの作品と言っていいのではないでしょうか。
そして、それがさらなる続編につながっていきそうなところも、うれしい限りです。


理那と西條がそれぞれの人生においてよい方向へ向かっていくだけに、対照的に復讐に突き進む犯人たちのもの悲しさが際立っています。
今回、冒頭からいきなり犯人の名前や素性がある程度明かされているのには驚きました。
いわゆる倒叙ミステリですが、そこにひねりを加えているのが貫井さんらしいと思いました。
読者には犯人の姿が見えているはずなのに、事件の全体像と真相はなかなか見えてこない。
一体どうなっているんだろう?と読み進め、終盤で明らかになった犯人の正体に驚かされました。
さらに、事件の真の構図も読者に見えていたものとは実は違っていたのだということに気づいて、二度驚かされることになります。
読んでいて怪しいなと感じた部分はあったのですが、気をつけて読んでいるつもりでも真相を見破るのはなかなか難しいものです。
真実を巧妙に隠して警察 (と読者) の目を欺き連続殺人を遂行した犯人たちの頭のよさと大胆さに感心する一方で、犯人たちの復讐に至った動機とその長い道のりはあまりにも哀しく、その部分に関しては救いがなく胸が痛みました。
ラストシーンはちょっと背筋が寒くなるような、恐ろしさを感じる終わり方になっていますが、だからこそ犯人たちの「その後」を読んでみたくなりました。


ミステリとしての謎解きの面白さはもちろん、西條を含む捜査にかかわる人々の人間模様を描く警察小説としての面白さも兼ね備えた作品です。
600ページを超える大ボリュームですが、先が気になる展開の連続でまったく飽きることがなく、非常に楽しく読みました。
☆4つ。


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