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『幹事のアッコちゃん』柚木麻子

幹事のアッコちゃん (双葉文庫)

幹事のアッコちゃん (双葉文庫)


妙に冷めている若手男性社員に忘年会幹事の極意を教え、敵意むき出しの取材記者には前向きに仕事に取り組む姿を見せ、“永遠の部下”澤田三智子に習い事を通じて時間のうまい使い方を知らせ…周りに生きるヒントを与え続けるアッコさん。そんな彼女にも一大転機が訪れる。読めば明日を頑張る元気が湧く大人気シリーズ第三弾!

『ランチのアッコちゃん』『3時のアッコちゃん』と続いてきた「アッコちゃん」シリーズ3作目です。
本作がおそらく完結編になるのでしょうか?
まだ続けようと思えば続けられる雰囲気の終わり方ではありますが、アッコさんと三智子それぞれに転機を迎え、前2作と比べると大きく物語が動いたという印象で、読み応えもシリーズ中ナンバーワンでした。


相変わらずパワフルでちょっと強引なアッコさんと、1作目の頼りない派遣社員の頃と比べると見違えるほどにたくましく強くなった三智子。
三智子以外の人物がメインで登場する話もありますが、基本的にはやはり三智子とアッコさんの関係が本作の最大の読みどころです。
あの自信なさげで卑屈でさえあった三智子が、派遣から正社員にステップアップし、なんと部下まで持つようになったのは、驚きとともに、よかったねぇとうれしくなりました。
もちろん、三智子が壁にぶつかるたびに叱咤激励し、おかしな方向に行かないように導いてきたのはアッコさんです。
たったひとりのよき上司に出会ったことで人はここまで変われるんだなと思うと、出会いって大切だな、一期一会とはよく言ったものだ、と妙に感動させられました。
ですが、三智子が本当にどうしようもない、見どころのない人物だったなら、いくらおせっかいで面倒見のよいアッコさんでも見限っていたのではないでしょうか。
三智子はもともと「やればできる子」だった。
そしてアッコさんは、人が持つ潜在能力を見定めて引き出すことのできる人だった。
そういう最良の組み合わせだったからこそ、三智子にとって素晴らしい出会いになったのだと思います。
そして、この出会いによって学びを得て成長したのは、実はアッコさんも同じだったのではないかなと、最後まで読んで思いました。
アッコさんは勤めていた会社の倒産という危機を乗り越え、「東京ポトフ&スムージー」という会社を立ち上げて、華々しく成功の道を歩みますが、その成功には三智子が果たした役割も、決して小さくはなかったと思います。
上司と部下という関係だけれど、それだけじゃない。
そんなアッコさんと三智子の関係を心底うらやましく思いました。


三智子以外の人物との関係の中では、アッコさんを内心敵視している記者の女性の話が印象に残りました。
成功者は時に嫉妬や反感を買いますが、この記者もアッコさんを貶めるような記事を書いてネットメディアに載せてしまいます。
もちろん、アッコさんには味方もたくさんいるので、そんなことではびくともしないのですが、自分に敵意のある相手にやり返さず冷たくするでも文句を言うでもなく、淡々と応じるアッコさんが、三智子に対する姿とは印象が違って新鮮です。
しかも、アッコさんはこの記者に、風邪で弱っている自分の姿さえさらけ出しています。
とにかく強い印象のあるアッコさんが、さすがに体調を崩して伏せっているときは弱弱しくて、ちょっとかわいい。
三智子視点で描かれるアッコさんは「スーパーパワフルキャリアウーマン」という印象しかないので、普通の女性としてのアッコさんの姿に、ほっとしてしまいました。
どんなに成功している人だって、自信満々に見える人だって、陰では苦労もしているし、時にはダウンすることもあるのですよね。
当たり前のことながらなかなかそれを想像するのが難しいから、記者のように一方的に敵意を持つ人が出てくるんだろうなと思います。
もうひとつ、アッコさんが若いサラリーマン男性に忘年会の幹事の心得を指南する話も面白かったです。
出席者たちの属性や雰囲気に合わせて、見事なお店チョイスの腕を見せるアッコさん。
私も幹事は苦手なタイプなので、なるほどなぁと感心しながら読みました。
思わぬところで勉強になって、自分もアッコさんの指導を受けた部下になれたようでうれしくなりました。
さて、アッコさんの教えを実践する機会はあるでしょうか?


他にもおけいこ事をいろいろやっていたりして (油絵はともかく、けん玉を習っているとは意外!)、毎日がとても充実していそうで、楽しそうなアッコさん。
最後には新たな人生に踏み出して、新天地でまた面白いことをやっているのが、本当にアッコさんらしいし魅力的だなと思いました。
またいつかどこかで、公私ともにさらに充実したアッコさんと三智子に会えたらいいなと思います。
☆4つ。




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