tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『十二人の死にたい子どもたち』冲方丁


廃病院に集まった十二人の少年少女。彼らの目的は「安楽死」をすること。決を取り、全員一致で、それは実行されるはずだった。だが、病院のベッドには“十三人目”の少年の死体が。彼は何者で、なぜここにいるのか?「実行」を阻む問題に、十二人は議論を重ねていく。互いの思いの交錯する中で出された結論とは。

冲方丁さんはSFや時代小説のイメージが強いので、現代ミステリの本作は異色作と言えるのかもしれませんね。
密室に近い状態の廃病院が舞台なので、本格ミステリなのかと思いきや、どちらかというと心理サスペンスといった方が近い内容でした。
コミカライズに続き、来年1月には実写映画が公開と、メディアミックス展開されているのも納得の、力作エンタテインメントです。


12人の子どもたちが集まった場所は、廃業した病院。
彼らが集まった目的は、集団自殺をすることでした。
ところが、彼らが死ぬために集った部屋では、「先客」がベッドに横たわっていました。
その人物が誰で、なぜここにいるのかが分からない状態では、集団自殺を実行することはできないと主張する少年が12人の中から現れ、彼らは自分たちがどうすべきか議論していきます。
ページ数の大部分が議論の場面に割かれていますが、それがまったく飽きない、むしろとても面白いのだから、すごいなと感心しました。
12人の子どもたちそれぞれの性格や考え方や心理状態が、議論の中でどんどん浮かび上がってきて、基本的にはずっと話し合っているだけにもかかわらず、心地よいスピード感があるのです。
12人というと小説のメインの登場人物の数としてはちょっと多いかなという気がしますが、確かに最初のうちこそ人物の名前と発言が一致せず混乱しかけたものの、それぞれの個性がはっきりしているのですぐに慣れて、全員の言動をしっかり追うことができるようになりました。
その議論の中で、12人が廃病院にやってきてからの行動が時系列で整理されていき、矛盾点が指摘されて、嘘をついているのは誰で、事実はどうだったのか、といったような事柄が、丁寧かつ論理的に解き明かされていく過程は圧巻です。
情報量が多いのでメモを取らずに一読ですべての謎解きを理解するのは大変ですが、読者も十分推理に参加できる内容だと思います。
ロジックがしっかりしていてフェアであるという点で、この作品は正統派のミステリだと思いました。


タイトルが非常に物騒というか、不穏な雰囲気ですが、実際のところはユーモアのある部分もあり、思ったほど暗くもなく、怖くもない物語です。
とはいえ、議論の中で少しずつ明かされていく、子どもたちが死にたい理由には胸を衝かれました。
中には理解しがたい、わけの分からない理由を語る子どももいますが、大半はいじめや病気、家庭の問題など、自殺の理由としてよく挙がるものばかりです。
10代の少年少女といえば、自分自身のその頃を振り返ってみても、本来は人生の中で一番楽しい時期といえるのではないかと思います。
それなのに「死にたい」というのは余程のことで、ひとりひとりが抱える苦しみや悩みの重さに、胸が押しつぶされそうでした。
12人の言動には青臭さや未熟さが端々に見られて、だからこそ信頼できる大人からの助けが彼らには必要なのに、一体この子たちの周りの大人たちは何をやってるの、と憤りさえ沸いてきますが、こんなふうに周りに助けを求めることもできず苦しんでいる子どもたちがたくさんいるというのが現実なんだろうと考えて、つらくなります。
だからこそ、結末にはちょっと救われたような気持ちになりました。
「死にたい」という子どもたちも、何かのきっかけがあれば、きっと生きていける。
そう思えました。


読み始める前に予想していた物語とはかなり違っていましたが、とても面白く読めました。
ミステリとしてはもちろん、青春小説として読んでも読み応えのある作品だと思います。
☆4つ。