tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『キャロリング』有川浩

キャロリング (幻冬舎文庫)

キャロリング (幻冬舎文庫)


クリスマスに倒産が決まった子供服メーカーの社員・大和俊介。同僚で元恋人の柊子に秘かな思いを残していた。そんな二人を頼ってきたのは、会社に併設された学童に通う小学生の航平。両親の離婚を止めたいという航平の願いを叶えるため、彼らは別居中の航平の父親を訪ねることに――。逆境でもたらされる、ささやかな奇跡の連鎖を描く感動の物語。

この作品、ストーリーに合わせてクリスマスに間に合うように文庫化されたのですが、そんな出版社の配慮を無駄にするのが私です……。
読むペースと読みたい本の数が釣り合っていなくて、全くタイムリーに読めていないというのは反省点ですね。
とはいえ時期を外してしまっても、作品自体はとても面白く読めました。


主人公の大和は、子どもの頃に父親から暴力を受けて育ちました。
さらに、自分の味方だと思っていた母親にも裏切られ、両親へのわだかまりを残したまま大人になりました。
そのことが原因となって、結婚話が出始めていた同僚の柊子とも破局します。
そんな大和と柊子が、勤務先の会社内に開設されている学童に通う少年・航平の、「両親の離婚をくい止めたい」という願いをかなえようと、会社には内緒でこっそり動き始めますが――。


子どもがつらい思いをする物語というのは、読む方もつらいですね。
大和が暴力を振るわれる場面はもちろん、航平が両親の不仲に心を痛める場面にも、胸が締め付けられるような思いがしました。
「子どもは親を選べない。」
そんな言葉が浮かんできて、より一層苦しい気持ちになります。
世間的には親というものは子どもに惜しみない愛情を注ぎ、子どもはそんな親に感謝しながら育ち、巣立っていく。
実際そういう親子関係であるケースがほとんどなので、そうでなかった場合の理不尽さが強く感じられることになるのでしょう。
どうして自分は親に恵まれなかったのかという思いと、あたたかい家庭で育った人たちへの嫉妬心とに苦しみ、傷つき、いらだって、時には周りの人を傷つけたり困らせたりしてしまう大和や航平ですが、そのことを責められるわけもなく、ただただ悲しい気持ちになりました。


それでも、作品全体を通して暗さや重さがなく、比較的軽めのタッチで物語が描かれていくことに、大いに救われました。
両親へのわだかまりと、別れた柊子への未練を残した大和が、それでも腐ることなく、誰かを責めるでもなく、口は悪いながらも航平のことを放っておけない優しさを持った人物として描かれていたのがとてもよかったと思います。
もちろん理不尽だという思いは消せないでしょうし、今後も両親を許して和解するというようなことも難しいかもしれません。
でも、そうした経験を糧によりよい未来を築いていくことはできると感じさせてくれる結末に、あたたかい気持ちになりました。
航平にしても、結果は彼が望んだ通りのものではなくとも、自分で行動して、両親に自分の思いを伝えたことで、納得する気持ちはあったのだろうなと思います。
人間が共に生きる中でどうしても軋轢や摩擦は生じますが、しっかり相手に向き合い、自分の気持ちを言葉にして伝え合うことの大切さが胸に沁みました。


大和や航平だけではなく、脇役は個性的でテンポのよい会話のやりとりが楽しく、悪役でさえも味があって憎めませんでした。
終盤のストーリー展開にちょっと突っ込みどころはありますが、全体的にはあたたかい空気の流れる、素敵なクリスマス小説だと思います。
☆4つ。