tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『密室殺人ゲーム・マニアックス』歌野晶午


“頭狂人”“044APD”“aXe”“ザンギャ君”“伴道全教授”。奇妙なハンドルネームを持つ5人がネット上で仕掛ける推理バトル。出題者は実際に密室殺人を行い、トリックを解いてみろ、とチャットで挑発を繰り返す。謎解きゲームに勝つため、それだけのために人を殺す非情な連中の命運は、いつ尽きる!?

インターネットのチャットを通じて集まったミステリ好きたちの中のひとりが、自らが考えた密室殺人トリックを実際に実行し、他のメンバーがその謎を解くという趣向の、不謹慎かつ不道徳極まりない推理ゲーム。
その様子を描く「密室殺人ゲーム」シリーズの第3作になります。
本書のシリーズ中の位置付けは「外伝的エピソード」とのことですが、前2作の内容を踏まえた謎が仕掛けられており、作者の新たな試みを十分味わうことができました。


こういう作品の場合、ネタバレを避けようと思うとほとんど内容に触れることができないのですが、今回「おっ」と思ったのは、オンラインチャットで謎解きゲームを実際に楽しんでいるメンバーのひとりが、自分たちのゲームの様子を動画共有サイトにアップロードし、メンバー外の一般の人が見られるようにしたという設定でした。
これによって、荒唐無稽な「ありえない」話であったはずの本シリーズのストーリーが、ぐっとリアリティを増したように思います。
彼らのゲームを外から見て楽しんでいる第三者は、私たち読者と視点も立ち位置も似ています。
ゲームのメンバーが発信する動画視聴者に対する「クイズ」は、そのまま「読者への挑戦状」にもなるわけです。
また、チャットもそうですが、動画・画像の共有サイトやWi-Fiを通じて離れたところからでもコントロールできるガジェットを駆使したトリックと謎解きゲームはとても今風で、実際に殺人を犯すかどうかは別として、こうした技術を利用したインタラクティブなゲームやイベントは今後増えてくるのではないかと思えます。
そうした現代的な要素と、「読者への挑戦状」のような本格ミステリのお約束との融合がとても面白いと思いました。


今回、謎解きゲームの内容は第1作の『密室殺人ゲーム王手飛車取り』、第2作『密室殺人ゲーム2.0』と比べると、少々小粒なように思えます。
でも、その理由も最後まで読めば納得できます。
前2作で描かれた謎解きゲームが好きな人には物足りないかもしれませんが、作者の焦点は今回は謎解きゲームの内容そのものとは別のところにあって、そういう意味で今作は「外伝的エピソード」だと言われているのだろうなと思いました。
「外伝」だからこそ、この作品は本編シリーズをすでに読んでいることが大前提になっています。
前作と前々作を踏まえた上での新たな角度からの謎解きを提示する作者の姿勢に、なるほど、こういうひねりを見せてくるのかとうならされました。


本編を読んできた者には楽しい外伝作品ですが、この外伝的作品が面白かったからこそ、やっぱり本編の正統な続編も読みたいなぁという気にさせられます。
解説の佳多山大地さんも書いているように、さらにインターネット技術や文化が進歩する中でそれを生かした謎解きがどのようなものになるのか、読んでみたいですからね。
続編、お待ちしております。
☆4つ。


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