tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『日の鳥』こうの史代

日の鳥

日の鳥


異才が描く東日本の風景――。
突然いなくなった妻を探して旅に出た雄鶏。
妻との想い出と東日本大震災の後の東北の景色を重ね合わせながら、いまを生きる。
読者に語りかけ、そっと心に寄り添う一冊です。

こうの史代さんの…何になるんだろうこれは、イラスト集?エッセイ集?一コママンガ?
ボールペンで描かれたイラストに、詩のようなセリフのような、短い文章が添えられています。
一応ストーリー形式になっていて、一羽の雄鶏がいなくなった妻を探して東日本大震災後の東北各地を巡るというもの。
震災後の東北の情景が丁寧に描かれています。
ストーリー漫画とはまた違った表現方法で、独特の味わいを醸し出しています。


主人公の雄鶏くんの視点がなかなか面白いですね。
人間ではないけれど、人間に近い、時に皮肉で、時に慈愛に満ちたまなざし。
決して大笑いできるようなものではないけれど、クスッとほんの少し笑顔にさせてくれるような、ユーモアにあふれたイラストと文章がいかにもこうのさんらしいなぁと思いました。
被災地の風景ですから、写真では生々しくなりすぎるであろう場所も、イラストならばあまり心を乱されずにじっくり眺めることができます。
中には雄鶏くんがパッと見ではどこにいるのか分からないイラストもあって、探す楽しみも味わえました。
また、あるページのイラストで「おや?」と思ったものの正体が、その数ページ後で分かった時にはなんだかとてもうれしくなりました。
こういう細かい描き込みと遊び心もこうのさんらしいですね。


震災のデータや東北の地図が載っていて、時々見返しては震災のことを思い出すのにも役立ちそう。
雄鶏くんの妻が姿を消した理由と、雄鶏くんの旅の行く末が気になるところですが、現在も続きを連載中とのことなので、また単行本化されるのを楽しみに待っていようと思います。