tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『輝天炎上』海堂尊

輝天炎上 (角川文庫)

輝天炎上 (角川文庫)


桜宮市の終末医療を担っていた碧翠院桜宮病院の炎上事件から1年後。東城大学の劣等医学生・天馬は課題で「日本の死因究明制度」を調べることに。同級生の冷泉と取材を重ねるうち、制度の矛盾に気づき始める。同じ頃、桜宮一族の生き残りが活動を始めていた。東城大への復讐を果たすために―。天馬は東城大の危機を救えるか。シリーズ史上最大の因縁がいま、解き明かされる。メディカル・エンタテインメント、驚愕の到達点!

どんどん広がり続けてきた「桜宮サーガ」。
なんとなくこの作品で一区切りついた気もするけれど、そうでもないんでしょうね。
はてさてどこまで行くのか…ここまで来るともう途中でやめられないなぁ。


東城大学医学部で留年を重ねていた劣等生だった天馬大吉。
優等生で美少女の年下同級生・冷泉深雪と共に、公衆衛生学の課題で死因究明制度について調べることになり、法医学者やAi関係者など、さまざまな人たちから話を聞くうちに、制度の問題点が見えてきます。
そして仕上げたレポートが最優秀の成績を取ったことから、天馬たちは東城大学病院Aiセンター創設に関わり、その結果そこに渦巻く桜宮一族の陰謀に巻き込まれていくことになり――。


海堂さんの「桜宮サーガ」シリーズはどの作品も相互につながりがありますが、この作品ほど他の作品とのつながりが強いものもないかと思います。
具体的に言うと、チーム・バチスタシリーズ最終巻の『ケルベロスの肖像』と表裏一体をなす作品なのです。
ケルベロスの肖像』はおなじみ田口公平の視点から見た、つまり東城大学病院側から見たAiセンター創設に関わる事件を描いていましたが、それを今度は医学生であり、事件と大きな関わりを持つ碧翠院桜宮病院炎上事件の生き残りでもある天馬大吉の視点から描き直すことにより、『ケルベロスの肖像』のストーリーが補完された格好です。
正直なところ、『ケルベロスの肖像』はなんだか中途半端というか、いえ、ちゃんと物語として完結はしているのですが、どうも物足りない部分がありました。
けれどもこの『輝天炎上』で『ケルベロスの肖像』では描かれなかった部分がきちんと書かれたことで、ようやくすべての謎が解け、非常にすっきりした気分になりました。
田口と天馬の視点の違いも面白かったです。
同じ場面でも人物が異なれば違ったイメージになりますし、あの時田口はこう考えていたけれど、天馬の方ではこんなふうに思っていたのね、といった対比が味わえたのがよかったです。
できることなら『ケルベロスの肖像』と『輝天炎上』はあまり間をおかずに続けて読んだ方がいいですね。
たぶんその方がいろいろ細かい違いや共通する部分に気付けて、2冊で1つの完成品として楽しめるはずです。


また、個人的には『輝天炎上』は医学部の授業や実習の様子が興味深かったです。
自分自身はもちろん、身近に医療系の学校に通っていた人というのが全くいないので、非常に新鮮に、医学部ってこんなふうなんだ、と感心しながら読みました。
今までのシリーズ作品で散々語られてきた死因究明制度のことやAiのことも、医学生の視点から改めて基本から丁寧に説明されていたので、私のような素人にも非常に分かりやすく、復習も兼ねてよい勉強になりました。
なぜかモテモテ(?)の天馬の恋愛絡みの描写もなかなか面白かったです。
白鳥や姫宮、高階病院長など、個性的な人物が多い中ではどちらかというと地味な方のキャラクターではないかと思いますが、一人称の語り手であるおかげか存在感を失わない天馬は主人公としていい味を出していたと思います。


ケルベロスの肖像』と対をなす作品として、面白かったのは確かですし、ケルベロス事件がこれでようやく完結したなという実感もありましたが、2作品読まないとすべての謎が解けないというのもちょっと不親切というか、ずるいなぁという気もします。
まぁ、それを言い出すとこの「桜宮サーガ」全体がそうなのですが…。
この作品単独でも楽しめないことはないと思いますが、基本的には「桜宮サーガ」の各作品を読んでおくことが前提となる作品だと思います。
☆4つ。
ところで私は次に『ナニワ・モンスター』を読む予定なのだけど、この順番で合っているのかなぁ…。