tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『シアター!2』有川浩

シアター!〈2〉 (メディアワークス文庫)

シアター!〈2〉 (メディアワークス文庫)


「2年間で、劇団の収益から300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」―鉄血宰相・春川司が出した厳しい条件に向け、新メンバーで走り出した『シアターフラッグ』。社会的には駄目な人間の集まりだが、協力することで辛うじて乗り切る日々が続いていた。しかし、借金返済のため団結しかけていたメンバーにまさかの亀裂が!それぞれの悩みを発端として数々の問題が勃発。旧メンバーとの確執も加わり、新たな危機に直面する。そんな中、主宰・春川巧にも問題が…。どうなる『シアターフラッグ』!?書き下ろし。

シリーズ2作目。
1作目と連続して読んだので、作品世界にどっぷり浸れて、シアターフラッグに愛着が湧きました。


1作目はシアターフラッグが「きちんと収益が出せる大人の劇団」への生まれ変わりを図る過程に焦点が当てられていましたが、今回はシアターフラッグの運営面というよりは、劇団内の人間関係に焦点が移った印象でした。
ダメ男で泣き虫主宰の巧に片想い中の牧子の、千歳に対する複雑な感情。
その千歳の、牧子をはじめとする劇団員たちへの気持ちと、司に対する想い。
演劇に対する気持ちが真剣なあまり落ち込むこともあり、そのたびに「便利な」小宮山に頼ってしまうゆかりと、ゆかりに優しい小宮山の真意。
万事に要領が悪くて不器用で、肝心なところでうっかりをやらかしてしまうスズと、そのたびスズをフォローする茅原。
劇団きっての熱血漢で、それだけに劇団内のもめごとのきっかけを作ってしまうことも多い黒川。
根がいじめられっ子根性で、泣きべそをかいては兄の司に張り倒されている巧の、意外な「やればできる」一面。
そして、トラブルのたびに自分を何かと頼ってくるシアターフラッグの面々を突き放そうと思いつつも、意外な粘りを見せる劇団員たちに、見方が変わってくる司。


まるで群像劇のように、劇団員+司たちそれぞれの心情や人間模様が入れ替わり立ち代わり描かれて、そのどれもが読み応えがありました。
シアターフラッグ関係者だけでなく、千歳の入団に反発してシアターフラッグを去った元劇団員や、司と匠の母親、司の上司で元演劇青年の部長など、脇役も皆個性的で、存在感がありました。
けっこう登場人物が多い感じですが、あまりごちゃごちゃせず、それぞれの個性がはっきりしているので混乱することもなく、きちんと話をまとめている辺りはさすが有川さんだなと感心しました。
個人的には1巻からの印象が変わることなく、司が一番のお気に入りです。
社会人としてしっかり常識が身についていて、お金のことも商売のことも事務作業もきちんとこなせる。
年齢の割に社会経験に乏しくて頼りない劇団員たちの保護者役として彼らをまとめ、引っ張れるリーダーシップもある。
言っていることは厳しくても、時に非情なほど劇団員を突っ放すことがあっても、その実悩んだり落ち込んだりしている人には優しくて寛容なところも見せる司兄ちゃん、かっこいいです!
有川作品にはこういう「迷える子どもたちを導く大人」役の人物がよく登場しますが、本当に魅力的に描かれているのでつい感情移入してしまいます。
だからこそ、恋愛の描写にも説得力があるんだと思います。
ラブコメは有川さんの一番得意とされるところですが、それだけではなく、妬んだり、憎んだり、嫌悪したり、ひがんだり…というネガティブな感情もしっかりと描かれていて、演劇業界をよく知らない私でさえも、こんな人間臭い劇団どこかにありそう、なんて思ってしまいました。


シアターフラッグとメンバーたちにすっかり愛着が湧いたところで、このシリーズは次の3巻で完結予定だそうです。
司からの借金300万を返す目が見えてきたシアターフラッグがどんな運命をたどるのか、劇団員たちの人間模様に変化はあるのか、続きが楽しみです。
有川さん、出版社さん、結末が気になるのでぜひ早めに3巻の刊行お願いします!
☆4つ。