tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『Mystery Seller』新潮社ミステリーセラー編集部・編

Mystery Seller (新潮文庫)

Mystery Seller (新潮文庫)


日本ミステリー界を牽引してきた8人の作家の豪華競演。御手洗潔、江神など、人気のおなじみの主人公から、気鋭の新たな代表作まで、謎も読み口も全く異なる八篇を収録。すべて読み切り、どの事件から解くのもよし。極上のトリックに酔いしれる、ミステリーファンに捧ぐ、文庫史上もっとも豪華なアンソロジー。著作リストつきでガイドとしても最適。

『Story Seller』のシリーズはとても質が高くて面白かったので、ミステリ版『Story Seller』と聞けば読まないわけにはいかないだろう!とばかりに手に取りました。
執筆陣の豪華さはさすが。
それなりにレベルも高い。
でも、なんとなくもやもやする読後感の作品が多かったかな…。
ミステリは、「すべての謎がきれいに解けてすっきり!」というのが好きなんですが、そういうタイプの作品が少なかった印象です。
短編だとやっぱり大きな仕掛けや巧みな伏線を潜ませるのは難しいのでしょうか。
ちょっと物足りなさを感じる作品があったのも事実で、その点は期待していただけに少し残念でした。
では、作品別の感想を。


「進々堂世界一周 戻り橋と悲願花」 島田荘司
島田さんの代表シリーズの探偵役・御手洗潔が登場します。
それだけでファンにとってはうれしくなりますね。
太平洋戦争中の日本で風船爆弾を作る工場に動員された朝鮮人の姉弟の話ですが、ミステリ度は低め。
御手洗が謎解きをするわけでもなく、殺人事件も起こらず、謎と言えるものは作中に(しかもかなり終盤に)1つだけしか登場しません。
それでも話に引き込まれてしまいました。
風船爆弾の話は知らなかったのでとても興味深く、こんな作戦ではそりゃ戦争には勝てないよな…と思えるエピソードがいくつも出てきて、そういった意味では勉強になったし面白いと思える作品でした。


「四分間では短すぎる」 有栖川有栖
これも有栖川さんの代表シリーズ、「学生アリス」の一作として書かれています。
こちらも特に事件は起こらず、アリスが駅でたまたま耳にした男が電話で話していた内容について、どういう状況での会話だったのかいつものメンバーが理屈をこね回して推理するというもの。
これもミステリかと言われると微妙なところかもしれませんが、見知らぬ人の電話中の発言を元に論理的に状況を推理するという試みは、いかにもアリスたち推理小説研究会のメンバーらしくて面白いと思いましたし、メンバーたちの会話も楽しかったです。
一節まるごと松本清張さんの『点と線』のネタバレに費やして、ネタバレされたくなければ読み飛ばしても問題ないというのはどうかと思いました…思わず笑ってしまいましたが。


「夏に消えた少女」 我孫子武丸
ああ、我孫子さんらしい作品だな、と。
この作品については内容に触れるとすぐネタバレになってしまいそうで、詳しくは書けませんが、不意打ちだったので驚かされました。
短い中にしっかり2段階もの驚きの仕掛けを組み込んでいて、さすがだなぁと感心しました。
このアンソロジーの中では一番ミステリらしいミステリだと言えるのではないかと思います。


「柘榴」 米澤穂信
最近の米澤さんはこういうブラックな作品が多いですね。
耽美でありながら、じわじわと怖い。
米澤さんの書く女性はなぜこうも怖いのか…。
でもこの怖さと後味の悪さがくせになると言うか、嫌な感じではないのですよね。
文章もさすがのうまさで読みやすく、雰囲気作りも見事です。
『儚い羊たちの祝宴』と似たような読み心地で、好みは分かれるところかもしれません。


「恐い映像」 竹本健治
あるCMの一場面を見た途端に急激な恐怖感に襲われた男性が、なぜそんな恐怖心を抱くのかその謎を解くためにCMの撮影地を訪れるという話です。
CMの映像に恐怖心を覚えるところから謎解きにつながっていくというのが、あまり今まで読んだミステリにはなかった切り口で面白いなと思いました。
文章も読みやすく、登場人物や話の展開もよく考えられています。
読後感も悪くなく、よい作品だと思いました。
竹本健治さんの作品は初めて読んだのですが、これを機会に他の作品も読んでみたいです。


「確かなつながり」 北川歩実
女子高生が誘拐・監禁される事件。
…と思いきや…。
うーん、これは何といったらいいのでしょうか…あまりにぶっ飛んだ展開に、思わずのけぞってしまいました。
驚きの大きさという点ではこのアンソロジー中一番でしたが、私がミステリに求める驚きとは違う種類の驚きでした。
いろんな意味で気持ち悪いし、ちょっとついていけないものを感じてしまいました。
会話が多いせいかどうも頭の中でイメージが浮かびづらく、読みにくい印象も受けました。
読後感もいまひとつですっきりしないものが残ってしまい、残念です。


「杜の囚人」 長江俊和
聞いたことのない作家さんだな、と思ったら、「放送禁止」シリーズなどの、映像作品で活躍されている方なのですね。
この作品も映像作家らしく?、小説というよりはドラマの脚本のような書き方をされていて、それが新鮮に感じました。
ちゃんとミステリらしいオチも用意されていて、映像的な作品でありながら、小説でなければ表現できない仕掛けもあって、なかなか面白かったです。


「失くした御守」 麻耶雄嵩
高校生が主人公の、青春ミステリかと思いきやそうでもなかったような…。
一番読後にもやもや感があったのはこの作品です。
ラストのある意味深な文章が気になって、もしや隠された謎があったのかと思わず最初から読み返してしまいましたが、よく分かりません。
気になりすぎてネットで検索をしても、別に何かの仕掛けがあったわけではなさそうな…。
それならどうしてあんな意味深な書き方をしたのか、またなんとなく中途半端な感じの残る結末にしたのか、今も理解できなくてもやもやしたままです。
この作品をどう読み解けばいいのか、誰かに詳しく解説してほしいです…。


面白いと思えたものもそうでなかったものもありましたが、それもアンソロジーの醍醐味でしょうか。
なんだかんだ言っても、第二弾がもし出たら、また読みたくなりそうです。
☆4つ。