tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『遠まわりする雛』米澤穂信

遠まわりする雛 (角川文庫)

遠まわりする雛 (角川文庫)


省エネをモットーとする折木奉太郎は“古典部”部員・千反田えるの頼みで、地元の祭事「生き雛まつり」へ参加する。十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという祭りだが、連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態に。千反田の機転で祭事は無事に執り行われたが、その「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する―。あざやかな謎と春に揺れる心がまぶしい表題作ほか“古典部”を過ぎゆく1年を描いた全7編。

省エネ主義の折木奉太郎と、「わたし、気になります」の一言で奉太郎を謎解きに駆り立てる千反田える
2人の出会いは、文化系の部活が盛んな神山高校古典部から始まった。
学園青春ストーリーに日常の謎と安楽椅子探偵という2つのミステリ要素をかけあわせた米澤穂信さんの代表シリーズ、「古典部」シリーズの4作目がついに文庫化されました。


前3作とは時系列的に遡ることになりますが、今回はまだ出会って間もない頃の奉太郎と千反田の話から始まって、全7話の間に少しずつ時間が進んでいき、1年かけて少しずつ距離を縮めていく2人の関係が描かれています。
人間関係に焦点が当てられ、奉太郎の微妙な心の動きが丁寧に描写されているためか、今までの作品よりぐっと登場人物が身近な存在に感じられました。
シリーズ4作目にしてようやく(?)学園青春小説らしい展開になってきましたね。
どうも理屈っぽい部分が目立っていた奉太郎が、理屈では説明できない自らの心の動きに気付いて、さてさてこれからどうするのか…。
「省エネ主義」の信条に反する感情とどのように付き合っていくのか見ものです。
じれったいほどに遠まわりしたような感じもするけれど、少しずつ変わってきつつある人間関係がこの先どのように発展していくのか楽しみで仕方ありません。


そしてやはりこのシリーズはミステリとしてもとても面白い。
その謎解きが青春物語と絶妙に絡んでいるところも素晴らしいです。
推理作家協会賞にノミネートされた「心当たりのある者は」は、短い校内放送からあれこれ推理を膨らませていく様子がとても楽しいです。
奉太郎の安楽椅子探偵ぶりを存分に発揮する展開ですが、ほんの短い言葉と状況からよくここまで理論的に話を広げられるものだと感心しました。
あとは「あきましておめでとう」と「手作りチョコレート事件」が、ストーリー的にもミステリ的にも好みです。
表題作「遠まわりする雛」は春の初めの風景が目に浮かぶよう。
ラストは何やら照れくさくて、思わずニヤニヤ笑いがあふれてきました。


シリーズの中ではこれまでで一番よかった。
きっとこの作品がシリーズのターニングポイントになるのでしょうね。
この先どんな方向へ進んでいくのか楽しみです。
早くも5作目『ふたりの距離の概算』の文庫化が待ち遠しいです。
☆5つ。