tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『モノレールねこ』加納朋子

モノレールねこ (文春文庫)

モノレールねこ (文春文庫)


小学生のぼくは、ねこの首輪に挟んだ手紙で「タカキ」と文通をする。ある日、ねこが車に轢かれて死に、タカキとの交流は途絶えたが…。表題作の「モノレールねこ」ほか、ザリガニの俺が、家族を見守る「バルタン最期の日」など、夫婦、親子、職場の同僚など、日常にさりげなく現われる、大切な人との絆を描いた 8編。

加納朋子さんらしい、日常のちょっとした場面に優しい眼差しを投げかけるような、心温まる短編集です。
お得意の「日常の謎」とはちょっと違うけれど、さすがにいい話書きますねぇ。
とにかく温かい、優しいといった言葉がぴったり来る作品ばかりです。
加納さんの手にかかれば、ザリガニですら優しいのですから。
しかもちょっと泣かせます。
う〜ん、癒される。


表題作「モノレールねこ」は既読でしたが、初めて読んだ時と同じように胸が温かくなりました。
小学5年生の子ども2人の、ねこを通じての不思議な交流。
そして大人になって…。
ある程度結末は途中で読めるのですが、それでも加納さんの書きっぷりがあくまで優しく、ユーモアに満ちているので、最後まで気分よく読めます。
ちょっと悲しい場面があっても、最後には心地よい読後感を味わわせてくれるのは加納さんならでは。
他の短編も全てそんな感じで、疲れ気味のときでも安心して読めるのがいいです。
特に「マイ・フーリッシュ・アンクル」、「シンデレラのお城」、「バルタン最期の日」あたりがお気に入り。
解説の方が書かれていますが、私も「バルタン最期の日」にはジーンと来て、まさかザリガニに泣かされるとは…と思いました。


大切なものを失って悲嘆にくれながら、それでも頑張って生きている普通の人たちに対する限りない優しさの眼差し。
それを持っている加納さんは、とても素敵な人だなぁと思います。
寡作なのが残念ですが、それはご家庭を優先されているからでもあるのでしょうね。
これからもゆっくりペースでかまわないので、殺伐とした世の中にそっと涙を拭くためのハンカチを差し出すような、そんな作品を書き続けて欲しいなと思います。
☆4つ。




♪本日のタイトル:DREAMS COME TRUE 「TRUE, BABY TRUE」 より