tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『Story Seller』新潮社ストーリーセラー編集部・編

Story Seller (新潮文庫)

Story Seller (新潮文庫)


これぞ「物語」のドリームチーム。日本のエンターテインメント界を代表する7人が、読み切り小説で競演!短編並の長さで読み応えは長編並、という作品がズラリと並びました。まさに永久保存版アンソロジー。どこから読んでも、極上の読書体験が待つことをお約束します。お気に入りの作家から読むも良し、新しい出会いを探すも良し。著作リストも完備して、新規開拓の入門書としても最適。

もともとは小説新潮の別冊として刊行された雑誌を、表紙もそのままに文庫化したものです。
執筆陣は若手の注目作家7名。
伊坂幸太郎さん、近藤史恵さん、有川浩さん、米澤穂信さん、佐藤友哉さん、道尾秀介さん、本多孝好さん。
いや〜、豪華なメンバーですね。
それなりに読書が好きな人なら全員一度は名前くらいは聞いたことのある作家ばかりでしょう。
私自身は近藤史恵さんと佐藤友哉さんのみ未読でした。
各作家の著作リストもついていますので、このアンソロジーで気になる作家が見つかれば、すぐにその作家のほかの作品を探しに行けます。
ボリュームも満点で、短編集とありますが、どの作品も読み応えたっぷりでとても満足感がありました。
また、雑誌の刊行が2008年4月だったそうですから、比較的新鮮な作品が読めたことも、文庫派にとってはうれしいですね。
かなりお得感のあるアンソロジーですので、1人か2人でも気になる作家さんがいれば手にとってみて正解です。
さすがに一定の評価を受けている作家さんばかりですので、作品のレベルも安定しています。
では、ここからは各作品の感想を。


●「首折り男の周辺」 伊坂幸太郎
隣に住む男が今世間を騒がせている連続殺人の犯人ではないかと疑う熟年夫婦、全くの赤の他人に間違われた男、同級生からいじめを受けている中学2年の少年という3つの視点からそれぞれ物語が進んでいきます。
この3つの物語のどこがどう繋がっているのかがミソ。
伊坂さんらしい話だとは思いますが、ちょっと分かりにくいかな。
ラストも少し中途半端なように感じました。


●「プロトンの孤独」 近藤史恵
自転車ロードレースのあるチームにおける、ギクシャクした微妙な人間関係とあるレースで起こった出来事を描いた作品。
これは話題作『サクリファイス』のスピンオフという位置づけなのでしょうか。
『サクリファイス』は未読ですが、この作品を読んだら『サクリファイス』も読みたくなりましたし、ロードレース自体にも興味が沸いてきました。
過酷なロードレースや、ロードレースならではの同じチームの選手同士の軋轢など、短い作品ながら読みどころが多く、とても楽しめました。
抑え気味の筆致で読みやすく、読後感はこのアンソロジーの中では一番よかったです。


●「ストーリー・セラー」 有川浩
ある人気女性作家とその夫が、学生時代のサークル仲間や親戚が絡むさまざまな事件を経験した果てに、少しずつ静かな破滅へと向かっていく物語。
…とこう書くと暗い話のようで、実際暗かったり重苦しかったりする部分もあるのですが、全体を眺めると有川さんお得意のラブコメという感じです。
後に作家になる妻と夫の馴れ初めの話は初々しくてくすぐったくていいですね。
後半はちょっとぞっとするような展開になっていくので好みが分かれるところではないかと思います。
私は2人に降りかかる災難といっていいいくつかの出来事は、ちょっと極端すぎるようにも感じました。
でも嫌いな話ではないです。


●「玉野五十鈴の誉れ」 米澤穂信
とある地方の名家に生まれたお嬢様と、その使用人の少女・五十鈴との絆を描いた話。
さすが米澤さん!
とても上手いですね。
作中に散りばめられた、読書好きなら思わずニヤリとしてしまう言葉の数々、この後何が起こるのかと常にドキドキさせる展開、巧妙に潜ませられた伏線…。
そして、最後の一行に背筋がゾクッとしました。
最後の一行でタイトルの意味も分かるようになっています。
やられた〜!!


●「333のテッペン」 佐藤友哉
東京タワーの頂上で他殺体が発見されるという事件の物語。
佐藤さんは初めて読んだのですが、洒落というか言葉遊びの利いた文体が面白かったです。
ただ、ストーリーは…私、いまいちよく分からなかったのですが(汗)
う〜ん、読み込みが甘いのかなぁ。
主人公の怪しさとか、事件の「真相」とか、ラストの主人公とある人物との会話にどういう意味があるのかとか…どなたか解説してください(汗)


●「光の箱」 道尾秀介
とある有名なクリスマスソング2曲を題材にした作品でした。
道尾さんというとホラーのイメージがあったのですが、この作品はクリスマスが題材だけあって心温まる(少しつらい部分もありますが)話で読みやすかったです。
誰もが知っている有名なクリスマスソングの歌詞をモチーフにした作中作(童話)も、ミステリ仕立てにしたストーリーもよく考えられているなと思いました。
でもミステリとしてはちょっとトリックが不発気味なのが残念。
○○トリックはもう少し早めに出しておいた方がよかったと思います。
ストーリー的にはかなり好きなタイプのお話でした。


●「ここじゃない場所」 本多孝好
クラスメイトの秋山という男子がテレポーテーションの能力を持っているのではないかと疑い、接近を試みる女子高生の話。
超能力ものはわりと好きだったりするので期待しながら読んだのですが、なんだか伏線を張るだけ張って、煙に巻かれた感じがしました。
秋山とその仲間(?)は一体何の目的で集まっているのか?
途中に登場した「アゲハ」の事件って結局何??
ものすごく気になるところで話が終わっちゃった感じです。
あ、分かった、これ続編を書くおつもりなんですね?
ぜひ残された謎を解明する続編を読みたいです。


「Story Seller」は第2号が今年5月に刊行されるそうです。
執筆作家は入れ替えになるんでしょうか?
次回もこの第1号と同じくらい豪華な執筆陣で、ボリュームのある短編集になるのなら期待大です。
収録作家のうち1人でも好きな作家がいる人はもちろん、最近の作家さんで誰か面白い人いないかな、と探している人にもおすすめのアンソロジー。
☆4つ。