『夏期限定トロピカルパフェ事件』米澤穂信

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を！　そんな高校2年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは<小佐内スイーツセレクション・夏>！？待望のシリーズ第2弾。

面白くて一気読みしちゃいました♪
『春期限定いちごタルト事件』に続く「小市民シリーズ」2作目。
清く正しく慎ましく(？)立派な「小市民の星」を目指す小鳩君と小山内さんが帰ってきました！

いやはやしかし。
「こう来るか〜！」と思わず最後はうなってしまいました。
前作を読んでいる人は(いや、この本は必ず前作を読んでからにしてくださいね)、この本を読み始めると、少し違和感を感じて戸惑うことでしょう。
その違和感は、最後の最後の思いもかけない展開へとつながっていきます。
連作短編集と思わせて、実は長編作品だった…と言ってしまっていいのでしょうか(この程度ならネタばれに…ならないですよね！？)
この展開には本当に驚かされました。
それに、この結末…。
普通に考えるなら、この「小市民シリーズ」は『春期限定〜』から『冬期限定〜』までの4部作となるはずですよね。
つまり、この『夏期限定〜』ではまだシリーズの前半が終わるところにすぎないわけで。
なのに、こんな、いきなりの大転回…いいの？
もちろん、小鳩君と小山内さんの特殊な関係を考えれば、いつか二人はこのような時を迎える運命だったというのは否定しようがないのですが、それを早くも2作目にして持ってきてしまうとは。
米澤穂信さん、なんて大胆なストーリー展開を見せる人なのでしょう…。
さらにすごいのは、この『夏期限定〜』の最後のオチの伏線が、前作『春期限定〜』からすでに張られていた、ということでしょう。
『春期限定〜』を読んで、小鳩君と小山内さんがやたらと「小市民」にこだわることに、「一体なぜそこまで小市民にこだわらなきゃいけないんだろう」という思いを抱いた人は少なくないと思います。
ですが『夏期限定〜』を読めば納得するでしょう。
『春期限定〜』で何度もしつこく繰り返された二人の「小市民」へのこだわり。
それは、『夏期限定〜』の終章に起きるある出来事において、最大限の効果を発揮します。
この効果を最初から完全に計算して書いたのだとしたら…、米澤さんは本当にすごい、すごすぎる作家です。
前作との合わせ技で☆5つ！！
それにしても…この二人、なんとも見ていてもどかしいですねぇ。
あれだけ聡明な二人だからこそ、気付いてないわけじゃないでしょうに。
「恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある」。
本当に、本当に、…それだけ？

さて、この結末だともう次回作が待ち遠しくてたまらないわけですが…次のタイトルとなるスイーツはなんでしょうね？
普通に「モンブラン」？
「パンプキンパイ」もいいかも。
意表をついて「月見団子」とか！
…なんでもいいから早く二人に「秋期限定」スイーツを食べさせてあげてほしいな、と思うのです。