tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『キラキラ共和国』小川糸

キラキラ共和国 (幻冬舎文庫)

キラキラ共和国 (幻冬舎文庫)


亡き夫からの詫び状、憧れの文豪からのラブレター、大切な人への遺言……。祖母の跡を 継ぎ、鎌倉で文具店を営む鳩子のもとに、今日も代書の依頼が舞い込みます。バーバラ婦人や男爵とのご近所付き合いも、お裾分けをしたり、七福神巡りをしたりと心地よい距離感。そんな穏やかで幸せな日々がずっと続くと思っていたけれど。『ツバキ文具店』続編。

ドラマ化もされた人気作『ツバキ文具店』の続編です。
「ポッポちゃん」こと鳩子は前作から引き続き文具店の店主と代書屋の仕事を両立させながら、私生活では大きな変化を迎えました。
少々ネタバレ気味になってしまいますが、前作でも登場したかわいい女の子、QPちゃんのお父さんであるミツローさんと結婚したのです。
鳩子は奥さんになると同時にお母さんにもなってしまいました。
これはなかなか劇的な変化ですね。
人生何が起こるかわからない、とはこのことでしょうか。
ですが、鳩子は自然体で少しずつ妻らしく、母親らしくなっていきます。
その様子が実に鳩子らしくて、まるで近しい友人を見守るようなほっこりした気持ちで読むことができました。


新婚さんの話なのでおのろけも少々ありつつ、それでも鳩子の視点で描かれるQPちゃんがとてもかわいくて和みました。
鳩子がいかにQPちゃんのことをいとおしく思っているか、しっかりと伝わってきます。
まさかミツローさんのこと以上にQPちゃんのことが好きなのでは!?と思えるくらいですが、ミツローさんともちゃんといい夫婦関係を築いているようで一安心。
特に鳩子がミツローさんとQPちゃんとともに初めてミツローさんの実家を訪れる話がとても素敵でした。
ミツローさんの家族がこれまた素敵な人たちで、結婚後初の里帰りに鳩子はもちろん緊張しただろうけれど、すぐに家族の一員として受け入れられて、夏の家族旅行としてもとてもよい時間を過ごせています。
結婚するまでご近所さんや友人には恵まれていたものの、家族と呼べるのは厳しい祖母くらいだった鳩子なので、自分の家庭を持ち、家族のあたたかさに触れることができたことに、なんだかほっとする思いでした。
ミツローさんの亡くなった前の奥さんのことも詳しく知り、嫉妬するのではなく好きになってしまうというのも鳩子らしいなと思います。
そうして順調に新生活を送っている鳩子の前に現れた不穏な影は、「レディー・ババ」なる派手なおばさん。
どうやら鳩子のお母さんらしいのですが、今まで行方不明だったのに急に鳩子の前に現れたのは、一体どんな意図があってのことなのか。
この人が台風の目になるのかな、と思っていたらそういうわけでもなく、特に大事件も何もないまま話が終わってしまいました。
レディー・ババに関しては、次作以降ということなのかな。
登場は少ないながらも強烈な印象を残していったので、ぜひ続きを読みたいものです。


もちろん、代書屋の仕事も順調なので、今回もいくつもの手紙が登場します。
今回は人に頼まれて書く手紙よりも、鳩子が自分のために書く、結婚をお知らせする手紙やミツローさんの前妻にあてた手紙が印象に残りました。
特に結婚通知の手紙は、その体裁も文章も、確かに鳩子とミツローさんとQPちゃんの家族にぴったりと思えてにんまりしました。
こんな結婚のお知らせ、受け取った方も幸せな気分になれそうでいいなあ。
代書した手紙の中では、ある年配の女性に依頼された、立て替えたままになっている新幹線代を払ってほしいということを友人に伝える手紙が印象的でした。
立て替えて、お代をもらわないままけっこうな時間が経ってしまって、でもこのままではもやもやするから支払ってほしい、でも相手は闘病中――という、なんとも難しい状況。
面と向かって言いにくいことなので、手紙で伝えたいという依頼人の気持ちはとてもよくわかります。
ですが手紙でもお金のことはなかなか切り出し方が難しいもの。
鳩子もどうしたものかと悩みますが、書き上げた手紙は相手のことを気遣いつつ、言いたいことをさらりと伝えるシンプルなもので、さすが代書屋さんだなあと感心しました。
こういう難しい手紙こそプロにお願いすると失敗がなくてよいのかもしれませんね。
ポッポちゃん、いい仕事してるなあと、こちらもうれしくなりました。


鎌倉の四季の風景も、旬の食べ物も、どれもがしみじみといいなあと思える描写で、自然と優しい気持ちになれるような読後感でした。
さらなる続編につながるような伏線もいくつか登場していることですし、次作の刊行を首を長くして待ちたいと思います。
☆4つ。


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