tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴』荻原規子


特殊な家系と力を持つ子女が通う鳳城学園で結成された「チーム姫神」。陰陽師、忍者、山伏の生徒で構成され「人間の世界遺産」を審査する視察団から注目を集める存在だ。その中心人物・泉水子が深行との交際を進めたことを知り、真響はチーム内のバランスを危ぶむ。合わせたように大規模なスケート教室が計画される。スポンサーは真響の実家・宗田家。一族の思惑に戸惑う彼女の前に現れたのは。傑作短編も収録した待望の続編。

続編というよりは番外編という感じもしますが、待望のRDGシリーズ最新作の文庫化です。
最終巻とされた6巻は「ここからなのに!」といういいところで終わってしまって、ちょっとストレスが溜まった感もあったので、こうしてまた新作が読めて本当にうれしいです。


シリーズ本編は主人公である泉水子の視点で描かれていましたが、本作には深行 (みゆき) の視点で描かれた3作と、真響 (まゆら) の視点で描かれた1作との計4編の短編が収録されていて、本編とは少し違う新鮮な雰囲気が味わえます。
深行視点の3編は、シリーズ本編で泉水子視点で描かれた中3の初夏・秋、そして高1の秋の一部の場面を深行視点で描き直したという形なので、「あの時深行はこんなことを考えてたのね!」という部分がたびたびあるのがシリーズ読者にとっては楽しいです。
中3の深行が年齢不相応な冷静さで周囲の人間を観察し、自分の立ち回り方を決めていくその計算高さには、かわいくないやつだなという感想を抱かずにはいられません。
生育環境や立場のせいでもあるので、仕方ないところもあるのですが、正直なところ中3の時にクラスメイトにこんな男子がいたら嫌いになっていたかも、と思ってしまいました。
それでも深行というキャラクター自体は嫌いになれないのですよね。
女泣かせの父親に振り回され、泉水子に対してはリードしているように見えてやっぱり振り回されているところが微笑ましくて、年相応の少年らしさが垣間見える部分も少なくないからです。
水子とはいいカップルだなと思います。


そして真響視点の表題作「氷の靴 ガラスの靴」が時系列的に本編の続きの話ということになります。
水子と深行の関係に進展があったらしいことを敏感に察知し、深行に対して「手が速い」と憤慨する真響がなんともかわいい。
深行とはちょっと違った形でかもしれませんが、真響にとっても泉水子はとても大切な存在なんだなと思えてほっこりしました。
そして、大人っぽい美少女で男子からの人気が高い真響が、実は恋愛には奥手で、高1でも初恋はまだ、というのがまたいいなと思うのです。
そんな真響がついに自分自身の恋愛に向き合うことになるのですが、お相手が意外というか何というか、へえ~と思ってしまいました。
また、この話はスケート教室の話なのですが、真響が幼い頃フィギュアスケートを習っていたことが明かされています。
何をやらせても華やかというかスター性のある真響にぴったりで、氷上を華麗に舞う真響を映像として見てみたいという思いが募ります。
しかも、真響の相手役として一緒にアイスダンスを踊ることになるのはなんと深行。
ますます見てみたいですね。
深行が真響とペアを組んでいても特に嫉妬するでもなくうっとり眺めていそうな泉水子も含めて。
真響の一族の実態も分かって、非常に見どころの多い充実した一編でした。


基本的にはシリーズ本編を読了したファンに向けたボーナス的な1冊です。
おなじみの登場人物たちとの再会に胸が躍りました。
ぜひまた新作が読めたらうれしいのですが……特に真響の恋の行方は気になるところですね。
気長に待ってみようかなと思います。
☆4つ。


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