tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『栞子さんの本棚2 ビブリア古書堂セレクトブック』


大きな電気工場から大金を盗み出した紳士盗賊は、捕まった後も金のありかを白状しなかった。一方、私は同居人の松村から、ちょっと変わった二銭銅貨の出どころについて執拗に問いただされる…。(「二銭銅貨江戸川乱歩)。乱歩、横溝正史夢野久作らが書き継いだ合作、妖婦蘭子の魔性の生涯を描く「江川蘭子」ほか、シェイクスピア太宰治など「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズで紹介された古今東西の名作を厳選収録。

「ビブリア古書堂」シリーズ本編に登場した作品の数々を収録したアンソロジーの第2弾です。
普段から古書店に縁がないと入手が難しそうな作品も収録されているのがありがたいですね。
ただ、さすがに複数の作品をまるごと全部収録するのは難しく、一部抜粋となっている作品もあるので、このアンソロジーを入り口に読みたいものを見つけて、古書店に足を運んで底本を探して読む、というのがよさそうです。
一部抜粋のものは「ビブリア古書堂」シリーズ本編の中で触れられている箇所を収録しているのですが、ここから面白いところなのでは?というようなところで終わってしまっているものもあり、ちょっと消化不良というかモヤモヤが残ってしまって、気持ちがすんなり次の作品に移れないということもありました。
これはもう、素直に底本を探しに行けということですよね。
そういう意味では純粋なアンソロジーとは言いづらく、ブックガイドとしての側面が強い1冊です。


今回は読んだことはなくとも名前は誰もが知っている有名どころの作家の作品が多く、比較的とっつきやすい内容になっているのではないかと思います。
特に江戸川乱歩の作品は5作品も収録されていて、そのどれもが強い印象を残す作品ばかりです。
子どもの頃に「少年探偵団」シリーズを読んで以来なので、本当にかなり久しぶりに江戸川乱歩作品に触れることになりましたが、どれも面白かったです。
もともと私がミステリというジャンルを好きになるきっかけとなったのが「少年探偵団」シリーズだったので、昔ワクワクしながら読んだ気持ちがよみがえるようでした。
特に「黄金仮面」と「二銭銅貨」が好きです。
「黄金仮面」は続きが気になるので、早速探しに行かなくては。


また、英文学科出身の私としてはシェイクスピアの2作品 (「ヴェニスの商人」と「ハムレット」) が収録されているのも見逃せません。
これまでに読んだことのあるシェイクスピア作品は「ハムレット」「ロミオとジュリエット」「リア王」「マクベス」となぜか悲劇ばかりだったので、「ヴェニスの商人」は新鮮でした。
収録されているのがごく一場面だけなので、登場人物たちの関係性やどういう状況の場面なのかが把握しづらかったのも確かですが、シェイクスピアらしい皮肉たっぷりの辛辣なせりふ回しなど、エッセンスは十分に楽しめました。
いつか喜劇作品も読んでみようとはずっと思っていて、なかなか手が回らずにいたのですが、これは「ヴェニスの商人」を読むべきでしょうね。
いいきっかけをもらえた気がします。


他には、戦時中の子どもたちの疎開生活を描いた小林信彦の「冬の神話」と、聖書の物語をベースにした太宰治の「駈込み訴え」が印象に残りました。
「駈込み訴え」はほとんど改行がなく、文字がびっしり詰まっていることにも驚きました。
巻末には各作品が「ビブリア古書堂」シリーズに登場した場面も転載されているので、本編を忘れてしまっていても安心です。
親切設計のブックガイドで、新たな読書体験への扉を開いてくれる本だと思います。
☆4つ。


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