tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~』三上延


ある夫婦が営む古書店がある。鎌倉の片隅にひっそりと佇む「ビブリア古書堂」。その店主は古本屋のイメージに合わない、きれいな女性だ。そしてその傍らには、女店主にそっくりな少女の姿があった―。女店主は少女へ、静かに語り聞かせる。一冊の古書から紐解かれる不思議な客人たちの話を。古い本に詰まっている、絆と秘密の物語を。人から人へと受け継がれる本の記憶。その扉が今再び開かれる。

昨年完結した「ビブリア古書堂」シリーズが帰ってきました!
一応「番外編」という位置づけなのだと思いますが、栞子さんも大輔もしっかりメインの人物として登場し、完結済みの本編シリーズとほとんど変わらない感覚で読めます。
たくさんの実在する本が作中に登場し、栞子さんがそれらの本にまつわる謎解きをするという展開も変わっていません。
シリーズの魅力が全く損なわれることなく保たれていることが、何よりもうれしかったです。


さて、ほとんど事前情報を入れずに本作を読み始めてびっくり。
タイトルにある「扉子」って誰だろう?と思っていたら、なんとなんと、栞子さんと大輔の間に生まれた娘でした。
6歳にしてすでに相当な本の虫、しっかり栞子さんの、いや篠川家の血を受け継いでいます。
そんな扉子に、栞子さんが過去に遭遇した古書にまつわるエピソードを語って聞かせますが、収録されている4つのエピソードのどれもが、人間の嫌な部分が垣間見える物語で、それがなんともこのシリーズらしいなと思いました。
本を題材にしたミステリはたくさんありますが、どちらかというとほのぼの系、心温まる物語が多いように思います。
「本好きに悪い人はいない」と、本好きなら信じてしまいそうになりますが、実際はそんなことはなく、貴重な古書をめぐって醜い争いが起きることもあるなど、人間の悪意や欲深さから目をそらさずしっかり描いているのが本シリーズです。
そういう部分が全く変わっていなかったのはうれしい半面、6歳の子どもに聞かせる話としてはなかなかヘビーだなと思っていたら、扉子はやはり完全には話を理解できていない様子で、母親の栞子さんをがっかりさせたり、心配させたりしています。
「本好き」は悪いことではありませんが、盲目的な本好きと、子どもらしい無邪気さとが合わさった状態の扉子には確かに危うさがあって、栞子さんの不安に思う気持ちがよく分かりました。
ただ、栞子さんもきっと同じような子どもだったはず。
たぶん、成長していく過程でさまざまな経験をして、扉子もいずれは本や本好きの人間が必ずしも善ではないということを理解していくのだろうと思います。


4つの物語の中では、第二話の「俺と母さんの思い出の本」が一番印象的でした。
この作品は他の作品とは少し毛色が違っていて、登場する本が文学作品ではなく、ゲーム関連本やラノベといった、サブカル系の本や雑誌なのです。
謎解きの中心に関わってくる本もゲームに関連したもので、しかも私もよく知っているだけでなくプレイしたことがある好きなゲームだったので、うれしくなりました。
そして、こうしたジャンルには詳しくないと言いつつも、ちゃんと一般人以上の知識を持っている栞子さんに驚き、改めて恐ろしいまでの本好きだと感心しました。
前述のとおり、「ビブリア古書堂」シリーズは人の嫌な部分を描く作品ですが、本作はそれだけではなく最後に心温まる展開があったのもよかったです。
ですが、実は一番心に残ったというか、にやりとさせられたのは、4つのエピソードの前後に挟まれる、大輔が大事にしている本を栞子と扉子が探すという話の結末です。
「大輔が大事にしている本」の正体――、これはもう、「ビブリア古書堂」シリーズを読んできてよかったなと思わせられるほど、素敵な「オチ」でした。
いつかその本を、扉子が読むこともあるのかなと思うと、さらに楽しい気分になりました。


「続編」ではないのでどうかな、などと思っていましたが、しっかりシリーズの流れを汲んだ読み応えのある1冊で、非常に満足できました。
末恐ろしい扉子の成長が気になるので、また同じような形で前日譚や後日譚が読めるとうれしいです。
☆4つ。
ところで、内容とは関係ありませんが、本文中に誤字・脱字が多いのには閉口しました。
校正をまともにやっていないのではないかと疑うレベル。
特に、第二話の主要人物の姓である「磯原」が複数個所で「幾原」になっているのはさすがにひどいと思います。
重版時にはぜひ直していただきたいものです。