tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『3月のライオン (13)』羽海野チカ


三月町の夏まつりで島田と初めて出会い、あかりと林田は、思いがけずそれぞれに転機を迎えることに。8月に開催される真夏の戦い・東洋オープンで、二海堂は“宗谷を倒した男"になるべく負けん気をたぎらせる。彼の指す将棋の駒音が、零や宗谷や滑川達、他の棋士達の胸中にまで響き渡っていく。

ストーリー的に大きな変化や急展開などはなくても、サイドストーリー的な小さなエピソードの積み重ねだけでも十分に読ませるのが、『ハチミツとクローバー』の頃から変わらない羽海野チカさんのマンガの大きな魅力だと思います。
13巻もそんな1冊。
巻を重ねてずいぶん登場人物が増えましたが、そのひとりひとりを丁寧に描いているので、印象が薄いキャラというのがあまりいませんし、どのキャラにもそれぞれ感情移入できるのがすごいところです。


12巻からの続きの、あかりさんを巡る三角関係 (?) では、林田先生のかっこ悪さがもはや愛おしいですね。
私はどちらかというと島田八段派なのですが、林田先生も悪くないし、親近感を持てるのは林田先生の方かな。
あかりさんがどちらを選ぶとしても (どちらも選ばないという可能性も十分あると思っていますが)、素直に祝福できるだろうと思います。
それにしても、恋が始まりそうな、始まったような……という微妙な段階の描写がくすぐったくて甘酸っぱくて、身もだえしてしまいますね。
10代の零くんの恋愛と比べると、島田さんや林田先生とあかりさんというのはだいぶ大人の恋愛になるはずなのですが、甘酸っぱさはどちらも同じ。
零くんの恋愛が当面は膠着状態になりそうなだけに、この3人には本作のときめき成分を増やす役割を期待したい――と思ったら特に急展開もなく将棋の話へ突入して肩透かしを食らいましたが、この将棋の話がとてもよくてすぐに頭が将棋モードに切り替わりました。


二海堂は作中でも読者の間でも愛されキャラだと思いますが、13巻ではまた素晴らしい姿を見せてくれて心を鷲掴みにしてくれます。
宗谷名人と対局するという夢が叶うことになり、心躍らせ棋士として覚醒していく様子がもう可愛くて可愛くて。
そんな二海堂に応えるように、宗谷名人もこれまでにないような表情を見せていて、それがまた魅力的なのです。
今まで静かな天才というイメージだっただけに、大人げない宗谷さんというのには笑ってしまいましたが、負けず嫌いなのはどの棋士も同じだなと思ってほのぼのしました。
不気味な印象の滑川七段のエピソードもとてもよかったです。
深堀りしやすそうなキャラクターだなぁとは思っていましたが、新たな側面が描かれたことで、滑川七段はますます印象的な人物になりました。


そして最後にメインで描かれたのは、久々の登場となる香子さん。
彼女の孤独が胸に沁みる、短いながらも心に残るエピソードでした。
香子にも救いがあってほしいし、幸せになってほしいなと強く思います。
その他、忠犬ぶりが愛らしい二海堂の愛犬・エリザベスや、「いい辻井さん」や、相変わらずいい人のスミスや、さらにパワーアップしているガクトさんや、「心に直接語りかける」田中七段など、出番の少ないキャラクターたちもしっかり存在をアピールしていました。
その分主人公のはずの零くんの存在感がとても薄かったような……(笑)
次の巻ではまた大活躍をしてほしいですね。
それと、ひそかに毎回楽しみにしていた監修の先崎学九段のコラムが今回はなかったことがとても残念でした。
調べてみたら、体調を崩されて将棋の方も休んでおられるとのこと。
早く回復されて、次の巻ではコラムが復活していることを心から願っています。


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