tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『豆の上で眠る』湊かなえ

豆の上で眠る (新潮文庫)

豆の上で眠る (新潮文庫)


小学校一年生の時、結衣子の二歳上の姉・万佑子が失踪した。スーパーに残された帽子、不審な白い車の目撃証言、そして変質者の噂。必死に捜す結衣子たちの前に、二年後、姉を名乗る見知らぬ少女が帰ってきた。喜ぶ家族の中で、しかし自分だけが、大学生になった今も微かな違和感を抱き続けている。―お姉ちゃん、あなたは本物なの?辿り着いた真実に足元から頽れる衝撃の姉妹ミステリー。

イヤミスの女王・湊かなえさんの作品ですが、本作はイヤミスというほどではないかなぁ。
ですが、読み終わった後に何とも言えない気持ち悪さやもやもやとした思いが残り、読後感が独特で強烈という意味ではとても湊さんらしい作品だなとも思いました。


『豆の上で眠る』とはなんだか不思議な語感で、これだけを見てもどんな話なのかあまり想像がつきませんが、このタイトルはアンデルセン童話の『えんどうまめの上にねたおひめさま』というお話に由来します。
主人公の結衣子が幼い頃、二歳年上の姉・万佑子に読んでもらった絵本として作中に登場します。
私はこの童話を知らなかったのですが、ある国の王子様が「本当のお姫様」と結婚したいと望んでいたところにやってきた、自分はお姫様だと名乗る少女が「本当のお姫様」なのかを確かめるために、少女のベッドの上にえんどう豆を一粒置き、その上に何枚も羽根布団を重ねた上に寝かせて、布団の下にあるえんどう豆の感触が分かるかどうか試す、という筋書きだそうです。
一体この物語にどういう含意があるのか、私には正直なところピンと来なかったのですが、とにかくこの物語が本作の姉妹の物語における鍵となっています。


大学生となった結衣子が夏休みに帰省した際に、自分が小1の時に起こった姉の万佑子の誘拐事件の記憶を思い起こす、というところから物語は始まります。
結論から言えば、万佑子はいなくなってから2年を経て無事に帰ってきたのですが、結衣子は別人のように変わっていた万佑子の姿に違和感を覚え、「本当の万佑子ちゃん」なのか、ずっと疑問を胸にくすぶらせ続けていました。
DNA鑑定も実施し、帰ってきた万佑子が両親の実の子どもである確率が極めて高いという結果が出ても、結衣子の抱いた疑惑が晴れることはなかったのです。
時を経て、ようやく万佑子ちゃん誘拐事件の真相が明らかになるのですが、それはなかなか意外なものでした。
ミステリとしては伏線が少なく唐突な感じが否めないのですが、結衣子の中で膨らんでいく疑惑や不信感、結衣子の母親のおかしな態度などが細かく描写されていて、最後まで謎解きが引っ張られることもあり、先が気になって仕方ありませんでした。
真実をすべて知った結衣子の反応には胸が痛くなりました。
周囲の大人たちの身勝手さに翻弄された結衣子の気持ちは、察するに余りあります。
イヤミスというほどではない、と最初に書きましたが、まさに羽根布団の下のえんどうまめの感触が背中にかすかな不快感をもたらすような、そんな読後感でした。


それにしても、このような物語は姉妹だから成立する話なのでしょうね。
兄弟や兄妹/姉弟といった関係にはない、女きょうだい独特の関係性が印象的で、女きょうだいのいない私にとってはとても興味深く感じられました。
湊さんは母と娘の関係に焦点を当てた作品も書かれていますし、女性同士の血縁関係を巧妙に描き出す作家さんだという印象がさらに強くなった作品でした。
☆4つ。