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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ホリデー・イン』坂木司

ホリデー・イン (文春文庫)

ホリデー・イン (文春文庫)


元ヤンキーの大和と小学生の息子・進の期間限定親子生活を描いた「ホリデー」シリーズ。彼らを取り巻く愉快な仕事仲間たち、それぞれの“事情”を紡ぐサイドストーリー。おかまのジャスミンが拾った謎の中年男の正体は?完璧すぎるホスト・雪夜がムカつく相手って??ハートウォーミングな6つの物語。

突然自分の前に現れた息子に戸惑い、素直になれない元ヤンキーのホスト・大和と、家事万能でしっかり者の小学生・進の、ぎこちない親子関係が微笑ましい「ホリデー」シリーズ。
『ワーキング・ホリデー』と『ウインター・ホリデー』でこの親子の魅力に取りつかれた人にはうれしい番外短編集が、この『ホリデー・イン』です。
「ホリデー」シリーズは脇役の魅力も大きいのですが、本作はその脇役たちこそが主役。
ファンにとってはたまらない作品集だと思います。


雪夜やナナなど、シリーズの登場人物たちのこれまで描かれることのなかった内面に迫っていて、それぞれの人物を深く知れてもちろんうれしいのですが、本作についてはただただ、「ジャスミン最高!」の一言に尽きます。
ジャスミンとは、大和が働くホストクラブのおかまのママさん。
親から受け継いだ不動産業も営んでいるというやり手の実業家の側面もあります。
収録されている6編のうち、「ジャスミンの部屋」「前へ、進」「ジャスミンの残像」の3編がジャスミンメインの話です。
「前へ、進」は厳密にはタイトル通り進視点の物語なのですが、登場するジャスミンが本当に素敵で、語り手の進と一緒にじんわりと泣けてきました。
とにかく、一本筋が通っていてぶれないところがかっこいいんですよね。
性的マイノリティとしてきっと辛い思いもしてきたのだろうし、苦労の多い人生を強いられてきたかもしれない、でも、だからこそ強い信念を持ち、その一方で情に厚いところもある人なのです。
どこか危なっかしい大和と、しっかり者とはいえ小学生の進をあたたかく見守り、導き、背中を押すジャスミンの懐の深さ、愛情の深さに、ほっこりと心が温まりました。
特に「ジャスミンの残像」で描かれる、ジャスミンと大和の出会いの物語がよかったです。
「ホリデー」シリーズ本編は大和視点なので、今回初めてジャスミン視点の物語を読んでジャスミンの大和に対する気持ちを知って、ますますジャスミンのことが好きになりました。


そんなふうに「ジャスミン最高!」な1冊ではあるのですが、もちろん他の話も楽しく読みました。
「前へ、進」での、進が大和に会いに行くことになるまでの経緯と、一生懸命前へ進んでいこうとする進の姿はなかなか泣けました。
「大東の彼女」では大東と元・女子プロレスラーの武藤さんとの関係にエールを送りたくなるし、「ナナの好きなくちびる」ではナナのちょっと苦い過去に胸がギュッとなった後、現在のナナが発する言葉にほっとさせられました。
6つのお話全てどれも読後感がよく、あたたかい気持ちになれます。
ただ、本編シリーズはできる限り読んでからの方がいいかもしれません。
巻末解説の藤田香織さんが丁寧に本編とのつながりを説明してくださっていて、本編も再読したくなりました。
☆4つ。
ところで坂木司さんは今年作家生活15周年だそうで、今年中にあと3作の文庫化が予定されているとのこと。
全て楽しみです。
「ホリデー」シリーズとはまた違った味わいの作品にも期待しています。


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