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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』三上延


ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく―。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった…。人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる。

大人気古書ミステリシリーズがついに完結しました。
思えばこのシリーズがきっかけとなってさまざまなお仕事系日常の謎ミステリラノベが誕生したのですから、非常に影響力の強い作品だったなぁと思います。
待ちに待った最終巻では、期待通りの大団円の結末を見せてくれました。


これまでのシリーズでは夏目漱石江戸川乱歩太宰治手塚治虫など、主に日本の作家が取り上げられていました。
最終巻はシリーズの集大成となるはずだから、やはり流れからいって日本の文豪が取り上げられるのかなと漠然と予想していたので、本の発売前に今回はウィリアム・シェイクスピアと知った時にはとても驚きました。
海外の古典というのは題材として難しいと思いますし、そもそもビブリア古書堂は洋書を扱う店ではありません。
英文科出身の私にとってはシェイクスピアはなじみのある作家ですが、一般的日本人にとっては決してそうではないでしょうし、一体この難しい題材をどう料理するのかと思っていたら、そこはさすがでしたね。
世界的にも非常に希少価値の高いシェイクスピアに関する古書を追うという、「お宝鑑定団」的な面白さとミステリとをがっちり融合させ、栞子さんが語るシェイクスピアに関する薀蓄も大いに知的好奇心をかきたててくれます。
その裏には膨大な資料や取材による綿密なリサーチがあったのだろうということが察せられ、「ライトノベル」という言葉が似合わないほどにひとつの題材を徹底的に突き詰めようとする作者の熱意に感嘆しました。
シェイクスピア初心者にも分かりやすいように、作品の書かれた時代の背景やストーリーが丁寧に栞子さんの口から説明され、思わず読んでみたいなという気にさせられます。
個人的にはシェイクスピアは悲劇ばかり読んで喜劇はほとんど読んだことがないので、本作で取り上げられている「ヴェニスの商人」を読んでみたくなりました。


もちろんシリーズ完結編として、栞子さんと大輔の関係はどうなるのかとか、栞子さんと母親との確執は、とか気になる部分にもきちんと結末をつけています。
ここ最近の巻では栞子さんの博識さや洞察力に押されるばかりの印象だった大輔が、終盤に頼もしいところを見せているのもよかったです。
自分は栞子さんに釣り合わないのではないかという不安を抱えていた大輔ですが、実際はちゃんと栞子さんと対等に付き合っていける男性だということが明確に描かれたのは、ラブストーリーとしても申し分ない結末だったのではないでしょうか。
母親とのエピソードがちょっとあっさり終わりすぎというか、少々物足りない感じがした以外はほぼ満足のいく最終巻でした。
ビブリア古書堂最大の危機を乗り越え、栞子さんと大輔の明るい未来を感じさせるラストがすがすがしいです。
また、最終巻とは言っても続けようと思えばいくらでも続けられそうな雰囲気なのもよかったと思います。
シリーズの新刊が書かれるという意味ではなく、作中世界で「これからも物語が続いていく」ということが感じられるのは、登場人物たちがちゃんと生きた人間として描けていたという何よりの証拠ですから。
今後も番外編やスピンオフで栞子さんや大輔と再会できるだろうことが作者のあとがきで明言され、ファンとしては一安心です。
とにかく下調べに膨大な時間が費やされたシリーズですから、ページ数の関係などで泣く泣く削ぎ落とさなければならなかったエピソードやネタもきっとたくさんあることでしょう。
それらが読めることを楽しみにしています。
☆4つ。


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