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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『聖なる怠け者の冒険』森見登美彦

聖なる怠け者の冒険 (朝日文庫)

聖なる怠け者の冒険 (朝日文庫)


社会人2年目の小和田君は仕事が終われば独身寮で缶ビールを飲みながら「将来お嫁さんを持ったら実現したいことリスト」を改訂して夜更かしをする地味な生活。
ある朝目覚めると、小学校の校庭でぐるぐる巻きにされ、隣には狸のお面をかぶった「ぽんぽこ仮面」が立っていて……ここから「充実した土曜日の全貌」が明らかになる--。
著者3年ぶりの長編小説の文庫化!

朝日新聞で連載していたときに読んでいたのでいいかな、と一旦は文庫化をスルーしていたのですが、やっぱり読みたくなって購入。
そうしたらけっこう大幅な改稿がされていたので、意外にも新鮮な気分での読書となりました。
単行本の時点で連載時のものからはだいぶ書き直されていたようですが、そこからさらに文庫化に際して改稿されたとのことで、都合3種類の『聖なる怠け者の冒険』が存在することになるのですね。
全てを読み比べてみるのも面白そうですが……新聞連載版は今となっては入手が難しいかな。


内容的にはいつもの森見ワールド全開。
だらだらと休日を過ごすのが好きな怠け者の小和田君が、祇園祭宵山を迎えた土曜日の京都で、正義のヒーロー「ぽんぽこ仮面」に「自分の跡継ぎになれ」と迫られ冒険を繰り広げるというストーリーです。
……と、一文にまとめてしまうと訳が分からないですね。
実際、特に何か高尚なテーマがあるとか、涙と笑いの感動巨編だとか、そういった小説では全くないのです。
個性的な登場人物たちが、荒唐無稽なファンタジー的世界でわちゃわちゃやっている、そういう物語なのですが、これが非常に強い吸引力を持っていて、ぐいぐいと読まされてしまいます。
かなり馬鹿馬鹿しいようなことでも硬めの文体で大真面目に語るというアンバランスさに妙なおかしみと魅力があり、ハマると抜け出せません。
私はこの魅力に『夜は短し歩けよ乙女』でとり憑かれてしまい、その後ずっと森見作品を追い続けていますが、本作は久しぶりの長編で存分にその魅力を堪能することができ、とても楽しい気分になりました。


個人的にうれしいのは舞台が京都であり、京都生まれの私がよく知っている場所がたくさん登場するということです。
四条やら烏丸通やら新京極やらといった地名から、レストラン菊水やらイノダコーヒやらといったお店まで、京都人にはおなじみの固有名詞が続々登場します。
京都の街がかなり詳細に描かれているので、土地勘のある人なら小和田君の冒険が繰り広げられる舞台を鮮明に頭に思い浮かべることができ、臨場感たっぷりに物語を追うことができるのです。
こういうのはやはり読者にとってはたまりませんね。
また、森見作品の愛読者ならば『有頂天家族』や『宵山万華鏡』とのつながりが作中随所に見つけられるのもうれしいところ。
うごうごする丸い毛玉=狸や、赤い浴衣を着た女の子など、独特のファンタジー的キャラクターが登場するだけで、ああ、本作の京都は他の森見作品の京都と同じ京都だ、と思えて愉快な気持ちになるのです。


タイトル通りの怠け者である小和田君と、「充実した土曜日」を過ごすことに全力を注ぐ恩田先輩と桃木さんのカップルとの対比が面白かったです。
休日を充実した1日にするべく手帳にみっちりと行動予定を書き出している恩田先輩が京都市内を細かく移動し続けるのに対し、主人公なのに物語の途中で眠り込んで夢の世界に行ってしまう小和田君。
私はどちらかというと休日はのんびりだらだらする方が好きなので、小和田君に共感できるのですが、怠け者とは言ってもなかなかの冒険ぶりが描かれた作品でした。
ぽんぽこ仮面の正体が明らかになる終盤からの展開はテンポもよく、楽しい気分で読み終わることができました。
☆4つ。


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