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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『祈りの幕が下りる時』東野圭吾

BOOK REVIEW


明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。シリーズ最大の謎が決着する。吉川英治文学賞受賞作。

東野圭吾さんの作品の中では加賀恭一郎シリーズが一番好きで、新作を毎回楽しみにしています。
今回は「シリーズ最大の謎」という触れ込みだったので、より楽しみでした。
実際、加賀シリーズファンにとっては非常に興味深いストーリー展開が待っていました。


今回の事件には、加賀の個人的な事情が大きく関わってきます。
彼が子どもの頃に家を出て行った母親が遺したものの中にあった、謎のメモ。
そのメモに書かれていたのと同じ内容が書かれたカレンダーが、ある殺人事件の現場となった部屋で発見されます。
その内容が意味するものが何か、その謎を解き明かした時、事件が解決を見るとともに、加賀が母について一番知りたかったことも彼の前に現れるのです。
シリーズを順に読んできた読者にとっては感無量な展開と言えるでしょう。
加賀が日本橋署にこだわって異動してきたことも、どのような経緯で母と生き別れになったのかということも、シリーズを通しての謎が、本作でようやく解き明かされ、非常にすっきりとすること請け合いです。
『新参者』や『麒麟の翼』など、シリーズの最近の作品では加賀の個人的な事情や内面の描写に焦点が移ってきていましたが、本作でその流れがクライマックスを迎えました。
だからこそ「シリーズ最大の謎」という惹句が使われているわけですし、一部では本作がシリーズ完結編であるかのような紹介も見ました。
いよいよこのシリーズも終わってしまうのかと思うとさみしく残念な思いだったのですが、完全に終わったというわけでもなさそうですね。
むしろここから加賀は新たなステージへ向かうのかなという気がします。
モテそうなのに女っ気があまりなかった加賀にもようやく新たな恋の兆しが感じられますし、ぜひ本作の最終ページの続きを読ませてほしいです。


ただ本作はミステリとしては地味というか、あまり派手な仕掛けはありません。
暗号っぽいものが登場した時には「おっ」と思いましたが、暗号とは少し違った意味合いを持つもので、謎解きに大きく関わってはくるものの、そこに驚きがあるかというとそういうわけでもありませんでした。
基本的にこの作品はどんでん返しや大きなトリックを楽しむものではなく、人間関係のドラマで読ませる作品です。
縁もゆかりもないはずの人物が入居していたアパートの部屋で殺されていた女性から、少しずついろんな人物をたどっていって、散らばっていたいくつかの小さな点を一本の線につないでいく地道な作業は、地味ながら堅実な刑事ものドラマを観ているようで、悪くないなと思いました。
実際の刑事の仕事だってフィクションで描かれるような派手で華々しい部分は少なく、おそらく大部分は地味な仕事なのではないかと思うので、そういう意味では加賀の刑事としての姿にリアリティが感じられてよかったです。
何しろ類稀なる洞察力と観察眼を持つという設定なので、下手をすると超人的になってしまって人間味が失われてしまいかねない人物なのです。
それだと人情ドラマに力点を置いたストーリーと合わなくなってしまうので、ミステリとしては控えめに、淡々と捜査が進んで少しずつ謎が解明されていく流れがちょうどよく、加賀個人の事情も絡むドラマにじっくり集中できました。


加賀にとって一番の引っかかりになっていたであろう、母親にまつわる謎が解けて、読者としてもすっきりしました。
シリーズとしては一区切りにはなるでしょうが、きっといずれまた新たな加賀刑事の活躍を読めると思っています。
期待してますよ、東野さん!
☆4つ。


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