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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『泣き童子 三島屋変調百物語参之続』宮部みゆき


三島屋伊兵衛の姪・おちか一人が聞いては聞き捨てる変わり百物語が始まって一年。幼なじみとの祝言をひかえた娘や田舎から江戸へ来た武士など様々な客から不思議な話を聞く中で、おちかの心の傷も癒えつつあった。ある日、三島屋を骸骨のように痩せた男が訪れ「話が終わったら人を呼んでほしい」と願う。男が語り始めたのは、ある人物の前でだけ泣きやまぬ童子の話。童子に隠された恐ろしき秘密とは―三島屋シリーズ第三弾!

許婚者を失ったことをきっかけに叔父と叔母が営む袋物屋・三島屋に住むようになったおちかが、客を招いて怪異話を聴くという「変わり百物語」を続けていくシリーズの第3作です。
百物語とは言っても、幽霊話から化け物話、ちょっと不思議な話など、なかなかバリエーションに富んでいて、どの話も読み始める時に「今回はどんな話だろう?」とワクワク、そしてドキドキします。
怖い話もあれば、泣ける話も、心温まる話もあって、百物語というひとつの趣向からさまざまな人間の姿や心模様を描き出していく、宮部さんのストーリーテラーとしての上手さがよく表れたシリーズだと思います。


今回は6つの話が収められていますが、その中で私が一番心動かされたのは「くりから御殿」でした。
幼少時に山津波に襲われ、奇跡的に助かった男が、保護された御殿で不思議な夢を見たことを語ります。
この物語は、いわゆるサバイバーズ・ギルトに苦しむ男の話です。
家族も、仲が良かった近隣の友達も、みんな山津波で亡くなって、どうして自分だけが助かってしまったのか――という年老いても消えることのない男の悲痛、そしてその悲しみに寄り添い受け止める男の妻の情の深さが心に響いて、涙なしには読めませんでした。
巻末の解説によると、この作品は東日本大震災のすぐ後に書かれたとのこと。
江戸時代の災害で苦しむ人を描くことにより、現代の被災者の心情に寄り添うという、宮部さんならではのエールの送り方に感動しました。
災害に見舞われた人々の悲しみや苦しみは、時代が移り変わっても不変なのだろうと思います。
このような心の傷を抱えて長い間苦しんでいる人に対して、おちかがやっていることはまさに現代におけるカウンセリングに近い役割を果たしたのでしょう。
大病を患い、もう残された人生は長くなくても、男にとっておちかに自分の経験と辛い思いをすべて吐き出せたことは、とてもよかったことだし、自身も心に傷を持つおちかにとってもよい経験になっただろうなと思います。


他にも、表題作「泣き童子」は人殺しの話で、語り手の男も底の知れない不気味さがあって怖ければ、ラストの展開も恐ろしい。
とても百物語らしい話と言えるかもしれません。
小雪舞う日の怪談語り」はいつも三島屋に人を招いて怪異話を聴いているおちかが、別の場所で開かれる怪談語りの会に出かけていくという話です。
おちかがどこかへ出かけていく話はこれまでにもありましたが、基本的には三島屋の中で話が進むこのシリーズにおいて、お出かけとなるとお年頃の娘であるおちかが着飾ったりするのが新鮮で楽しいです。
この話の中で登場する青野利一郎という手習所の若先生とおちかの間で、ほのかな恋が始まりそうな始まらなさそうな、そんなじれったい感じも微笑ましくていいなと思いました。
「まぐる笛」は人を食らう怪物の話で、宮部さんの別の作品『荒神』に近い恐ろしさを感じました。
この怪物の退治方法はある意味とても哀れで、非常に印象的でした。
最後の話「節気顔」では今後のシリーズの展開の伏線となりそうな「商人 (あきんど)」なる人物が登場します。
おちかも言っている通り、善なのか悪なのかよく分からない「商人」が、今後どのような形で再びおちかの前に現れるのか、そしてその正体はどういったものなのか、宮部さんなら納得のいく物語を紡いでくれると思うので、今から楽しみです。


今後につながる新たな展開も示され、ますます楽しみなシリーズになってきました。
人間として大事なことを改めて教えてもらえるような気がして、物語として面白いだけでなく、しっかり読み込んでいろんなことを感じ取りたいと思えるシリーズです。
☆4つ。


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