tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『はるひのの、はる』加納朋子


大きくなったユウスケの前に、「はるひ」という名の女の子が現れる。初対面のはずなのに、なぜか妙に親しげだ。その後も「肝試しがしたい」「殺人の相談にのって」と無理難題を押し付ける。だが、ただの気まぐれに思えた彼女の頼み事は、全て「ある人」を守る為のものだった。時を超えて明らかになる温かな真実。ベストセラー「ささら」シリーズ最終巻。

佐々良という地方都市を舞台にした『ささらさや』『てるてるあした』に続くシリーズ最終作です。
2014年に映画化もされた『ささらさや』ではまだ赤ん坊だった「ユウ坊」が、今作では少年に成長して登場します。
シリーズ読者としてはそれだけでもう泣けてきてしまいますね。
もちろん、ユウ坊のみならず『ささらさや』『てるてるあした』に登場したキャラクターたちが、決してメインではなくとも元気な姿を見せてくれて、とてもうれしくなりました。


本作は、幽霊が見えるという特殊能力を持つユウスケの前に現れる謎の少女「はるひ」と、彼女からユウスケに押し付けられる、ほとんど無茶に近い頼みごとを描いた6つの物語から成る連作短編集です。
シリーズ最終巻とはいえ、内容的には本作だけを読んでも十分楽しめるものになっています。
幽霊は登場するけれど、ホラーでも怪談でもなく、どちらかというとファンタジー風なところが加納さんらしく、怖さはほとんどありません。
どの短編もあたたかみや優しさを感じさせる一方で、切なさや悲しみの色も濃く見えます。
死んだユウスケの父が幽霊として登場する『ささらさや』よりももっと強く死の影が感じられ、いくつかの不幸なできごとが示唆されているため、読み進めるにつれ胸がざわつきますが、最後に6つの物語すべてがつながる種明かしが待っており、切なくも心あたたまる結末にホッとさせられます。
最後に一気に謎が解けるカタルシスは、ミステリ作家としての本領発揮。
ああ、ファンタジーだと思って読んでたけど、やっぱりミステリだったんだな、とそういう意味でもハッとしました。
この世のものではないものが登場しているので「日常の謎」ミステリとは言い難いかもしれませんが、読み心地は非常に加納さんらしい作品だと思います。


物語の核心部分にはもちろん触れるわけにはいきませんが、読み終わった後で一番印象に残ったのは、「母性」と「理不尽な運命」の描き方でした。
事件や事故に巻き込まれるとか、難病を患うとか、世の中には理不尽な運命がたくさんあります。
それは誰に降りかかってもおかしくない運命です。
そして、その運命をなんとか変えたいと抗うのも、人間の心の動きとして自然なことでしょう。
この作品はファンタジーとSFの手法を用いてその抗いを描いているのですが、非現実の力を借りても変えられることと変えられないこととがあるということも描かれています。
その辺りの線引きが、加納さんは非常にシビア。
これは確か『ぐるぐる猿と歌う鳥』でもそうだったなぁと思い出しました。
フィクションなんだから何をどう描いても自由なのですが、現実の厳しさから決して逃げない加納さんの物語の紡ぎ方は、ご都合主義からは程遠いリアリティがあります。
そして、そんな物語だからこそ、理不尽な運命に対する抗いの裏にある「母性」の持つあたたかさと優しさが心に染み入るのです。
子どもという名の未来を案じる母親の強い祈りと願いこそが、この物語を動かす原動力になっています。
そこに何よりも感動しましたし、この祈りと願いは加納さんご自身の祈りと願いでもあるのだろうなと思いました。


それほどボリュームがあるわけではない中に、ミステリとファンタジーとSFが絶妙の配分でミックスされている贅沢な作品でした。
『ささらさや』の番外編が収録されているのもうれしかったです。
シリーズ完結はさみしいですが、しっかりシリーズを閉じてもらえてよかったなという満足感もありました。
加納さんの次の作品を心待ちにしています。
☆4つ。


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