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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『高校入試』湊かなえ


県下有数の公立進学校・橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に「入試をぶっつぶす!」と書かれた貼り紙を見つける。迎えた入試当日。試験内容がネット掲示板に次々と実況中継されていく。遅れる学校側の対応、保護者からの糾弾、受験生たちの疑心。杏子たち教員が事件解明のため奔走するが……。誰が嘘をついているのか?入試にかかわる全員が容疑者?人間の本性をえぐり出した、湊ミステリの真骨頂!

もともとは湊さんがドラマの脚本として書き下ろしたものを、ご本人が小説化した作品だとのことです。
地方の名門公立高校の入試当日に起こる事件の様相を、教職員・受験生・在校生など、さまざまな人物の視点から描いています。
ドラマは観ていませんでしたが、確かに映像向きの作品だなとは感じました。


高校入試というと、多くの人にとって人生最初の大きな試練と言っても差し支えないのではないかと思います。
志望校選びから始まって、高校入学後どのような道に進んでいきたいかを考えることは、自分の人生の進路を定める作業に他なりません。
それは小学校入試や中学入試を経験した人でも同じなのではないでしょうか。
高校入試こそが、まず最初の「将来」に向けての関門と言えると思います。
だからこそ本人はもちろん、家族や中学の先生も、最初の一歩で躓かないように心を砕きます。
本作の舞台、橘第一高校(一高)は県内屈指の名門校で、この学校を卒業しているということが東大合格にすら勝るステータスになっています。
つまり、一高に受かるか受からないかによってその後の人生において大きな違いが出てくるわけで、だから人ひとりの人生を左右しかねない入試は公正であるべきだ、ということが明確に描き出されています。


登場人物の中には一高OBが何人かいますが、その全員が一高出身であることを誇りにしています。
そのプライドの高さが鼻について不快感を抱かせる人物もいて、ここまで出身高校=学歴を意識するのはちょっと行きすぎじゃないかなぁと思いつつ、この国が学歴社会であることもまた否定できない事実です。
作中で語られるいくつかのエピソードは、高校入試には人生がかかっているということをかなり誇張しているようにも思いましたが、私自身、高校入試の制度については疑問を感じている部分も多々あります。
本作の焦点となっている採点ミスの問題もそうですが、内申書などは先生のさじ加減でどうにでも点数操作ができてしまいそうに思えます。
教師も人間である以上、ミスをすることもあるし、生徒に対して好き嫌いの感情を持つこともあるでしょう。
間違った非行記録を元に志望校に推薦できないと担任教師に告げられた中学生が自殺した事件も記憶に新しいですが、入試や進路指導においても人間はミスをするということを前提に制度設計をする必要がありますし、何より大事なことは学校・生徒・保護者の信頼関係をしっかり築いておくことではないでしょうか。
「入試をぶっつぶす!」という過激な文言から始まった事件を通して、そんなことを改めて考えさせられる作品でした。


殺人は起こりませんが、犯人は誰で、動機は何なのか、というミステリの基本がしっかり押さえられており、どのような展開になっていくのかハラハラしながら読みました。
ちょっと登場人物が多すぎて、一部のセリフが誰の発言なのか分かりづらいところがあった (おそらくドラマなら問題なかったのでしょうが…) のは残念でしたが、「高校入試」をテーマにした殺人の起こらないミステリというのは他に似たような作品もなく、面白い発想だと思います。
☆4つ。