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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『子どもの王様』殊能将之

子どもの王様 (講談社文庫)

子どもの王様 (講談社文庫)


団地に住むショウタと親友トモヤ。部屋に籠もって本ばかり読んでいるトモヤの奇妙なつくり話が、ショウタの目の前で現実のものとなる。残酷な”子どもの王様”が現れたのだ。怯える親友を守るため、ショウタがとった行動とは? つくり話の真相とは? 『ハサミ男』の殊能将之が遺した傑作をついに文庫化!

子どもでも大人でも楽しめる子ども向けミステリ叢書「講談社ミステリーランド」の中の1作品です。
単行本は装丁も非常に凝っていて、執筆陣も豪華で、こうした企画ものに子どものうちに出会える子どもたちをうらやましく思ったものです。
大人でも楽しめることを目指した叢書ではありますが、子ども時代に出会う本はどこか特別というか、大人になってから読むのとでは全然意味合いが違うと思うのです。
この作品は特にそういう側面が強いのではないかと感じました。


ミステリーランド」シリーズはこれまでにも何作か読みましたが、わりあいどれも似たような雰囲気だなぁという印象です。
普段は大人向けの作品を書いている作家がジュブナイルを書くと、発想が似てくるのかもしれませんね。
大人にとってはどこか懐かしい、ノスタルジーを感じさせる雰囲気に、切なくほろ苦いストーリー。
中には、麻耶雄嵩さんの『神様ゲーム』のように子ども向けとは思えない容赦ない残酷さを持つ作品もありましたが――。
本作も、舞台が団地というのが余計にノスタルジーをかきたてるのか、大人視点で読むととにかく懐かしい雰囲気です。
主人公が男の子なので、男性が読むともっと懐かしさと共感が得られるのかもしれません。
特にヒーローもののテレビ番組だったり、学校で友達とする遊びだったり、登下校の風景だったり――は、かつて小学生だった大人はみな「こんな時代が自分にもあったな」と懐かしく感じられることでしょう。
こういう感想を抱けるのは、大人として読んでいるからこその特権だと言えます。


その一方で、ミステリとしては、大人の目から見ると「ん?どこが謎なの?」という疑問を持たざるを得ません。
この作品の謎解きは、あくまでも子ども向けとして書かれているのです。
タイトルにもなっている「子どもの王様」の正体が本作のメインの謎ですが、大人であればその謎の真相はかなり早い段階で分かってしまいます。
真相に気付いても特に驚きはなく、全く謎と呼べるようなものではないと言ってしまっても過言ではないくらいです。
けれども、子どもにとってはこの真相は十分にショッキングで、驚きに値するものなのでしょう。
子どもにとっては「すごいこと」「大変なこと」が、大人にとっては「よくあること」「不思議ではないこと」だというのはよくあることです。
おそらく作者は、この作品を読んだ子どもがいつか大人になってから再読することを願って書かれたのではないかと思います。
子どもの時に読んだ本を成長してから再び読んでみると、受ける印象や感想が変わるという、そんな読書体験をしてほしいと願って。
巻末のあとがきや解説によると、殊能さんは子どもの頃からたくさんの本を読んでこられたようです。
そういう作家さんだからこそ、子どもたちに自分と同じような経験をさせてあげたいという思いが強かったのだろうなと思いました。


読者の子どもたちにとってそうであるように、物語の主人公である小学生のショウタも、作中で起こった事件の意味を完全に理解しているわけではないだろうと思います。
でも、もうあと数年もして中学生や高校生くらいになったら、「ああ、そういうことだったのか」と理解する日が必ず来ます。
そう思うと、子ども時代って本当に短いなと切ない気持ちになりました。
☆4つ。
それにしても、作者の殊能さんも、ミステリーランド担当編集者の宇山日出臣さんも、どちらもすでに故人であるということが非常に残念です。