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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『そして、星の輝く夜がくる』真山仁


東日本大震災の爪痕が生々しく残る東北地方の小学校に、神戸から赴任した応援教師・小野寺徹平。かつて阪神・淡路大震災を経験した彼は、心に傷を負った子どもたち、父兄たちとの”本音の交流”を通して、被災地が抱える問題と向き合っていく。「ハゲタカ」シリーズの真山仁が挑んだ、渾身の震災文学。

私は未読ですが、「ハゲタカ」シリーズなど企業小説のイメージが強い作家さんだけに、震災をテーマにした作品も書かれているのかと少し驚きました。
ですが、阪神・淡路大震災の経験者であると知って納得。
きっと阪神被災者として何か書きたいという気持ちはずっとあったのではないかなと思います。
言い方は悪いですが、東日本大震災が、執筆のよいきっかけになったのではないでしょうか。
作者が2つの震災について考えたこと、感じたことがよく伝わってくる良作でした。


本作は、神戸から応援教師として東日本大震災被災地の学校に赴任した小学校教師・小野寺を主人公に据えた連作短編集です。
小野寺自身、阪神・淡路大震災被災者でもあり、自分自身の経験も活かしながら、被災地の子どもたちと向き合っていきます。
時に事なかれ主義の大人や地元の人たちと衝突したりもしますが、関西人ならではの押しの強さも手伝って、誰とでも本音で接し、被災地の小学校が抱える様々な問題に取り組みます。


こうした作品を読まなくても、被災直後の学校で、教職員の方たちがどれほど大変だったであろうかは、ある程度想像がつきます。
身内や知り合いにたくさんの死者を出し、生まれ育った地元の風景は一変し、避難所となった学校にはたくさんの人が生活している、という環境の変化に加え、原発事故から来る不安や恐怖、被災地外のマスメディアが報じる無責任な内容――。
大人でさえ耐え難い状況で、子どもたちがどれほどその小さな心を痛めたことか。
そして、そうした子どもたちを守り、元気づけ、サポートする先生たちは、どれほど苦労されたことかと。
小野寺は被災地外から応援教師として赴任しているので、自分自身の生活再建を考える必要はなく、それだけできっと被災地の学校には大きな助けになったのだろうと思います。
作中で彼が繰り返し言う、「我慢するな」という言葉は本当にそうだなと思いました。
被災者だから、全国から助けてもらっているから、などとそんな理由でつらいこと苦しいことをすべて我慢して、不平不満を飲みこむ必要など全くないのです。
そんなことをしていては、いつか限界が来て心が壊れてしまいかねません。
自分が本音を出すことで、相手にも本音を吐き出させようとする小野寺の姿勢に、強い共感を覚えました。


この作品で最もよいなと思った点は、いろんな視点が描かれていることでした。
学校が舞台なので、被災者の中でも、大人の視点と子どもの視点が描かれています。
それに加え、被災地外の人の視点、ボランティアの視点、東電関係者の視点、マスメディアの視点、阪神大震災被災者の視点……。
それぞれに立場が違い、考え方が違い、生き方が違う、いろんな角度の視点が盛り込まれています。
そして、それらの違いに対し、作者がどれが良いとも、どれが正しいとも書かず、結論をあえて避けているのもまたよいなと思いました。
被災地が抱える様々な問題にしろ、大震災と原発事故を受けて日本の災害対策やエネルギー政策がどうあるべきかという政治的な問題にしろ、簡単に答えが出るようなものではありません。
被災者だけに限っても、ひとりひとり事情や意見は異なることでしょう。
この作品は、そうした多様な視点を描くことにより、読者が自分の頭で考えるきっかけを与えてくれています。
中には結末にもやもやした思いが残る話もありましたが、だからこそいろいろと考えさせられました。


今年ももうすぐあの日がまた巡ってきます。
5年経ってもまだまだ完全復興には程遠いのが現状ではないかと思いますが、本作のような震災を描いた作品を読むことで、ひとりでも多くの人があの震災や原発事故について改めて考えることができたらよいなと思いました。
☆4つ。