tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『orange (1)~(5)』高野苺

orange(1) (アクションコミックス)

orange(1) (アクションコミックス)

orange(2) (アクションコミックス)

orange(2) (アクションコミックス)


高校二年生の菜穂に届いた未来からの手紙。そこには未来の自分の後悔がつづられていた。
はたして菜穂は手紙を読み「後悔しない未来」を作ることができるのか?切ない思いが交錯するタイムパラドックスラブストーリー。

ひさしぶりにマンガを大人買い
実写映画化されて、その映画の主題歌をコブクロが担当するという縁での全巻一気買いでしたが、巻数が多かったらためらっていただろうから全5巻というのはちょうどいいボリュームだと思いました。
とはいえ、話がけっこう重く、なかなか難しいテーマを孕んだ内容なので、全5巻できちんとまとめられるのかという疑問もあったのですが、きれいに結末をつけていて感心しました。


高校2年、1学期の始業式の日に、菜穂のもとに1通の手紙が届きます。
差出人はなんと10年後の自分自身。
手紙には転校生としてやってくる翔(かける)を自分が好きになること、けれども10年後の世界に翔はいないということ、菜穂は翔を救えなかったことを後悔しているということが書かれていました。
最初は半信半疑ながら、実際に翔が転校してきて自分を含む仲良しグループに加わると、菜穂は手紙の指示に従って翔を救うための努力を始めますが、手紙のおかげで何が起こるかが分かっていても、なかなか自分の引っ込み思案で受身な性格までは変えられず、不安にさいなまれることになります。
菜穂がひとり思い悩むうちにも時間は流れ――。


タイムパラドックスの要素を盛り込んだSF風学園ラブストーリーといったところでしょうか。
最後まで読むとSFとしてはちょっと不完全燃焼気味かなという印象でしたが、学園もの、友情もの、恋愛ものとしてはとてもよくできた作品だと思います。
菜穂と翔の淡い恋愛模様が初々しさ満点で、甘酸っぱくてよいですね。
ふたりとも控えめな性格というのが大きいですが、とてもゆっくりと距離を縮めていく様子がじれったくて、でも嫌味はなくて、素直に応援したい気持ちになります。
そして、このふたり以上の存在感を放つのが、須和・萩田・アズ・貴子の仲良しグループ。
それぞれ個性がはっきりしていて、重いテーマを持つストーリーを適度に明るく読みやすいものにする役割も担っています。
ストーリー後半は彼らも菜穂と共に一致団結して翔を救おうと頑張ることになりますが、もともと仲の良いグループだからこその一体感がうらやましくなります。
部活、文化祭、体育祭など、学校生活の描写もキラキラしていて楽しそう。
私はもはや彼らの保護者の方が年齢的に近いくらいなので、眩しいなぁ、若いっていいなぁ(笑)などと思いながら微笑ましく読んでいました。


キャラクターの中では個人的には須和がお気に入り。
というか、この作品を読んで須和を好きにならない人がいるなら見てみたいと思うくらい、須和はある意味おいしいポジションです。
菜穂のことを好きでいながら、自分の気持ちを抑えて翔を救うために菜穂と翔の恋を応援するなんて、できすぎというかなんというか。
いつも菜穂をさりげなく見守っていて、彼女が困ったり泣いていたりするところにタイミングよく駆けつけてアドバイスしたり慰めたり……というのもかっこよすぎるでしょう。
おかげで、翔は救われて欲しいけど、須和の菜穂への想いも報われてほしい、というジレンマに陥ってもやもやしながら読み進める羽目になりました。
10年後の須和は菜穂と結婚して子どももいるということが描かれているだけに、翔を救うために未来を変えたらその部分も変わってしまうのではないかと思えて、余計に胸が苦しくなります。


この作品のテーマである、未来に後悔を残さないためにどう生きるべきか、生きるのが辛いほど苦しんでいる人にどう手を差し伸べるか――については、菜穂の心理描写を通じてじっくりと描かれます。
10年後の自分からの手紙のおかげで、未来に何が起こるかを知っていても、そう簡単に思い通りの未来に変えられるわけではありません。
それでも菜穂が自分が変わらなくては未来は変えられないと気づいて、内気だった性格を少しずつ積極的な方向へ努力して変えていこうとする過程に、同じく内向的な性格である私としてはとても共感できました。
そうそう人間の性格は変わるもんじゃない、でも後悔したくないなら勇気を出さなければならないし、自分一人では無理なことも、共に頑張ってくれる仲間がいればできることもある。
高校生という若い彼らには本当にどんな未来でもあり得るし、本人が自ら扉を閉ざしてしまわない限り、どんな道でも選べます。
そして、さまざまな選択を経て未来が変わっていったとしても、変わらないものも確かにあるのだろうなと思います。
たとえば、翔を救うために未来を変えた結果、菜穂が須和と結婚しない未来になったとしても、10年後の菜穂が手紙に書いた「須和は私の心を救ってくれた大切な人」という思いは、変わらないのだろうと思えるのです。


少女マンガ誌から青年マンガ誌へと掲載誌を移籍したという異例の経緯を持つだけあって、少女マンガの枠にとらわれず、男性にも読みやすい作品ではないかと思います。
爽やかな感動と切なさが味わえる作品で、私のように一気読みするにも適度なボリュームなのがよいと思います。
「春色アストロノート」という恋愛マンガも併録されていますが、こちらも主人公の双子姉妹がかわいくてよかったです。
実写映画は……どうかなぁ、時期的にもちょっと観に行く暇がなさそうな気がしますが、原作をどう味付けするのかは気になるところです。