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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『被害者は誰?』貫井徳郎

被害者は誰? (講談社文庫)

被害者は誰? (講談社文庫)


豪邸の庭に埋められていた白骨死体は誰なのか?犯人が黙秘を貫く中、警察は押収した手記をもとに、被害者の特定を試みるが…。警視庁の桂島刑事から相談される、迷宮入り寸前の難事件の数々。それを解き明かすのは、頭脳も美貌も態度も規格外のミステリー作家・吉祥院慶彦。痛快無比!本格推理の傑作。

だいぶ前に刊行された作品なのですが、なぜ今頃読むことになったかというと……、この夏の講談社文庫のキャンペーンで対象商品を買うともらえる「夏ミス下じきしおり」が欲しかったからです(笑)
書店でどれにしようかな、と眺めていたときに、ちょうど目に飛び込んできたのがこの『被害者は誰?』でした。
そういえば未読だった、と思い出し、めでたく(?)しおりをゲット。
――完全に講談社さんの販売戦略にはめられております。


それはさておき。
本作はストーリー性よりもミステリとしての謎解きの面白さに重点を置いた作品なので、あまり詳しく内容に触れることはできませんが、結論から言うと、とても面白かったです。
表題作「被害者は誰?」から始まり、「目撃者は誰?」「探偵は誰?」「名探偵は誰?」という4つの短編が楽しめます。
あまりミステリ(推理小説)を読み慣れていない人にとっては、ミステリといえば犯人当て小説、というイメージが強いのではないでしょうか。
ところが本書に収録されている作品は、どれも犯人当てが主眼ではありません。
最初から犯人が明らかにされている作品もあります。
では何を当てるのかというと、それは各作品のタイトルが端的に表しています。


「被害者は誰?」は、ある殺人犯の自宅から発見された手記を読んで、その手記に登場する人物のうち誰が被害者だったのかを解き明かす話です。
犯人は分かっているのに被害者が誰なのかわからない、というのは不思議な状況のように思えますが、殺害後かなりの年月が経ってから被害者の白骨化した遺体が発見されたため、人物特定が難しく、犯人は黙秘している、という無理のない設定がされています。
作中作ともいえる手記を読み進めるうち、「あれ?」という違和感をいくどか感じ、その違和感を元に私なりに推理してみたのですが、部分的には当たっていたところもあったものの、完全に真相を見抜くには至りませんでした。
貫井さんの読者騙しのテクニックがいかんなく発揮されていて、さすがだなとうならされました。


「目撃者は誰?」は、ある会社の社宅で不倫していることを何者かに嗅ぎつけられ、それをネタに脅迫された男が、誰が不倫の証拠を目撃し、脅しをかけてきたのかを突き止める話です。
後半でくるりと世界をひっくり返してみせる手法が貫井さんらしいですね。
ああ、そういうことだったのか!と膝を打たずにはいられません。
目撃者を探すという趣向も、あまり他にはない着眼点で面白いと思いました。


「探偵は誰?」は、本書における探偵役であり作家である吉祥院慶彦が、自分が実際に遭遇して解決した事件を元に書いた小説を読み、どの登場人物が探偵役=吉祥院なのかを当てるというものです。
論理的に探偵役が誰かを導き出せるものではない、というふうに書かれていたので、どちらかというとクイズに近い感覚で楽しみました。
私が「なんとなくこの人が探偵かなぁ」と思った人物は、結果的には正解だったのですが、ミステリとして意外性を出すならこの人物かな、という深読みがたまたま当たったというだけの話です。
当たったとはいえ、真相はそれなりにひねりがあって、これまた面白かったです。


「名探偵は誰?」はどちらかというとおまけ的な、非常に短い作品。
それでもちゃんとミスリードによって驚きを味わわせてくれるのがさすがです。


貫井さんならではの、どんでん返しの面白さが存分に味わえる短編集で、とても満足して読み終えました。
探偵役・吉祥院慶彦の、長身美形のイケメンでありながら性格は傍若無人で下品、という人物造形も面白いです。
ちょっと趣向の変わったミステリを気軽に楽しみたいという人にぴったりの作品だと思います。
☆4つ。