tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『カレイドスコープの箱庭』海堂尊


なぜか出世してしまう愚痴外来の元窓際講師&厚生労働省の変人役人の凸凹コンビ、最後の事件!
閉鎖を免れた東城大学医学部付属病院。相変わらず病院長の手足となって働く田口医師への今回の依頼は、誤診疑惑の調査。
検体取り違えか、それとも診断ミスか!?エーアイ国際会議の開催に向けて、アメリカ出張も控えるなか、田口&白鳥コンビが調査に乗り出した――。
巻末には、「登場人物リスト&桜宮市年表&作品相関図」や、作家の日々を綴った書き下ろしエッセイも特別収録。海堂ワールドを網羅した完全保存版。

ケルベロスの肖像』がシリーズ最終作……と思っていたら、また新たな作品が刊行されました。
どうやらこれが本当の最終作のようです。
シリーズものはあまり引き伸ばしてもいいことはないと思っているので、8作目で最後というのは悪くない区切りかなと思います。
――って、本当に最後……ですよね??


今回は東城大病院で誤診疑惑騒動が持ち上がり、おなじみの田口先生が高階院長から調査を命じられます。
さらにはAiに関する国際会議の準備をしろという無茶振りまでされて、シリーズ最終作でも田口の苦労人ぶりは相変わらず。
そしてもちろん(?)そこには白鳥が絡んできます。
シリーズのお約束を今回もしっかりと踏まえつつ、検体の取り違えか誤診かという、大病院ではいかにもありそうな疑惑の調査に取り組む中で、今の医療現場が抱える訴訟リスク問題が浮き彫りになってくる、という構成はさすがですね。
田口や白鳥や高階をはじめとする個性の強い登場人物たちが繰り広げる騒動を、あくまで面白おかしく描きながら、医療の現場の現実もシビアに描くという、エンタメ小説と社会派小説のいいとこ取りのような作風は、海堂さんの大きな強みだと思います。


ただ、今作は事件自体は小さいというか、謎解きの過程(関係者への事情聴取)はなかなか面白かったものの、犯人(?)や真相に意外性があるわけでもなく、ミステリ好きとしては少々物足りなく感じました。
まぁこれまでに大きな事件に何度も見舞われている東城大病院が、これ以上派手な大事件の舞台となるというのもちょっと不自然というかやりすぎになりそうな感じはするので、この程度でちょうどよかったのかもしれません。
シリーズ最終作だけあって、今までに登場した懐かしいキャラクターたちも多数再登場し、まるで同窓会のような楽しさがあるのはよかったと思います。
あのキャラクターももう一度見たかった!など、ファンにはそれぞれ思うところもあるでしょうが、本作で登場しなかった人物もまたどこか別の海堂作品には登場するかもしれませんし、それを期待できるのが本筋のバチスタシリーズのみならず多方面に広がる海堂ワールドのよいところです。


巻末には豪華おまけつきで、特に桜宮市年表は、時系列が混乱しがちな海堂ワールド読者にとってはありがたい内容でした。
作者の本音全開の「放言日記」は歯に衣着せぬ文章が本編以上に刺激的で、すべての内容に共感はできないまでも、とても興味深く面白かったです。
シリーズを通読してきた読者にとっては読み逃せない最終巻だと思います。
☆4つ。
ところで、いくら初版とはいえ本文中の誤字脱字が多すぎるのには閉口しました。
もっとしっかり校正していただきたいものです。


●関連過去記事●tonton.hatenablog.jp