tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『奇面館の殺人』綾辻行人

奇面館の殺人(上) (講談社文庫)

奇面館の殺人(上) (講談社文庫)

奇面館の殺人(下) (講談社文庫)

奇面館の殺人(下) (講談社文庫)


奇面館主人・影山逸史が主催する奇妙な集い。招待された客人たちは全員、館に伝わる“鍵の掛かる仮面”で顔を隠さねばならないのだ。季節外れの大雪で館が孤立する中、“奇面の間”で勃発する血みどろの惨劇。発見された死体からは何故か、頭部と両手の指が消えていた!大人気「館」シリーズ、待望の最新作。

綾辻さんの代表作「館」シリーズの最新作。
ひさしぶりに新作を読めるというだけでもうれしいものですが、今作はシリーズ初期の頃に雰囲気が近く、シリーズのファンにとっては感涙ものではないでしょうか。


中村青司という建築家が設計した奇面館で毎年行われる奇妙な集まり。
奇面館主人は「表情恐怖症」で、この館内では主人も使用人も招待客も、全員が仮面をつけて顔を隠さなければならない。
主人は「もうひとりの自分」を探すためにこの集まりを行っていて、主人の求めに応じて参加した者には謝礼として200万円が支払われる――。


この「ありえない」設定のオンパレード。
全員が仮面をかぶっている状況を想像すると、不気味な非現実感にぞっとします。
ミステリが苦手という人には、こうしたありえない設定が受け入れられない人も多いのでしょう。
でも、この「ありえなさ」こそが本格ミステリの面白さだとも思います。
作者が緻密に作り上げた世界の上で動く登場人物、起こる事件、それに続く謎解き。
えっと驚かされたり、そういうことか!と納得したり。
そんなふうに作者の掌の上で踊らされるような、ある種のゲーム的な楽しみがあるのが本格ミステリだと思うのです。
「吹雪の山荘」や、仕掛けのある館といった、ミステリのお約束的なガジェットがこれでもかと詰め込まれているのもまた楽しい。
「館」シリーズはこうじゃなくっちゃ!と思いました。


ネタバレになりそうであまり詳しく書けませんが、「仮面」という小道具がなんとも象徴的というか、意味深だなぁと思います。
仮面とは人間の顔を隠すもの。
この作品の中では、謎の真相を巧妙に隠す役割も果たしています。
登場人物全員が仮面をかぶっているという設定が奇抜で、どうしても読者はそのことに気を取られます。
それによって、ある重大な事実が読者の目からすっぽりと覆い隠されてしまうのです。
まさに読者も仮面をかぶらされて視界が狭められているかのように。
この作品に登場する仮面は、ミステリそのものを象徴しているのかもしれないなと感じました。


シリーズ1作目の『十角館の殺人』で、あのたった1行の文章に強い衝撃を受けてから、もう長い時間が経ちました。
あの衝撃ほどの驚きを今作で感じることはありませんでしたが、それでもやっぱり綾辻さんが描く謎は魅力的でした。
最後まで読み終えてから再び冒頭に戻って読んでみると、しっかり伏線が仕込まれていたことが分かり、読者へのヒントもきちんと散りばめられているフェアさにも感心しました。
「館」シリーズは全10作で完結予定とのこと。
ということは次作が最終巻となるのですね。
シリーズ最終作ではどんなふうに驚かせてくれるのか、今からとても楽しみです。
首を長くして待っていますよ、綾辻さん!
☆4つ。


●関連過去記事●
とりあえず前作『暗黒館の殺人』のみ貼り付けておきます。
もう7年以上前の記事というのにびっくり。tonton.hatenablog.jp