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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『虚像の道化師』東野圭吾

虚像の道化師 (文春文庫)

虚像の道化師 (文春文庫)


ビル5階にある新興宗教の道場から、信者の男が転落死した。男は何かから逃れるように勝手に窓から飛び降りた様子だったが、教祖は自分が念を送って落としたと自首してきた。教祖は本当にその力を持っているのか、そして湯川はからくりを見破ることができるのか(「幻惑す」)。ボリューム満点、7編収録の文庫オリジナル編集。

ガリレオシリーズ7作目にあたる短編集です。
「文庫オリジナル編集」とあるように、もともと『虚像の道化師』の単行本に収録されていた4作品に、次作『禁断の魔術』の単行本に収録されていた3作品を加えての合計7編が1冊にまとめられています。
では『禁断の魔術』の文庫版はどうなるのか、というと、単行本には収録されていて、今回の『虚像の道化師』文庫版には未収録の1作品が加筆され、長編になって刊行されるとのこと。
う~ん……どういう意図があるのか分かりませんが、単行本と文庫版とであまり大きく内容が変わるというのは好ましくないのでは、という気がしなくもありません。
単行本を買って読んだ読者に、文庫版をも買わせようという戦略なのでしょうか。
この出版不況と言われる時代において、なんとか1冊でも多く売ろうとあれこれ策を巡らせるのは理解できますし、文庫化に際して加筆訂正が行われたり、ボーナストラックなどのおまけがついたりするのはよくあることですが、作品そのものの形が大きくオリジナルから変化するのは少しやりすぎのように思えます。
本好き同士で作品について語るときに、同じタイトルの作品なのに単行本を読んだ人と文庫版を読んだ人との間で話が食い違ってくるようなことはあまり起こってほしくないなぁと思うのです。


と、のっけから否定的なことを書いてしまいましたが、作品としてはさすがに人気シリーズの7作目ともなればしっかりとした安定感があり、するすると読めました。
収録されている7編のうち、一番よかったと思うのは第四章の「曲球る(まがる)」。
全盛期を過ぎて引退を考え始めたプロ野球選手の妻が殺されるという事件が発生し、その事件を担当したのが草薙だったのが縁で、湯川が科学者の観点からそのプロ野球選手の復活に力を貸す、というストーリーです。
全体的にオカルトっぽい謎を科学的に解明するという筋書きが多いガリレオシリーズにおいて、湯川がスポーツ選手のサポートをするというところが目新しく感じました。
事件としてはあっさり解決し、その後残った被害者の遺留品の謎を解くというもので、他の作品とは謎解きの視点が違っているのも新鮮でした。
すがすがしい読後感もよかったです。
もう1作品よかったものを挙げるとすれば、第七章「演技る(えんじる)」でしょうか。
普通の倒叙ものだと思って読んでいたので、思いがけない真相に驚かされました。
犯人の動機も読みどころのひとつですね。


短編集だけでもすでに『虚像の道化師』も含めて4作品が刊行されており、よくこれだけネタをひねり出せるなと感心します。
さすがの読みやすさで安心して楽しめますが、個人的には長編の方が湯川の心情がじっくり描かれていて好きです。
読み応えの面から言っても、短編はもういいかなぁ……。
作品としては☆4つ、最初に書いた単行本からの変更についても評価に加えるなら☆3つというところ。
ところで、内海薫だけはなぜ最初から最後までずっと「内海薫」とフルネーム表記なのだろう……と妙なところが気になりました。
どうでもいいと言えばいいのですが。