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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ヴァン・ショーをあなたに』近藤史恵


下町のフレンチレストラン、ビストロ・パ・マル。フランスの田舎で修業した変人シェフの三舟さんは、実は客たちの持ち込む不可解な謎をあざやかに解く名探偵。田上家のスキレットはなぜすぐ錆びる?ブイヤベース・ファンの女性客の正体は?ミリアムおばあちゃんが夢のように美味しいヴァン・ショーを作らなくなったわけは?シェフの修業時代も知ることができる魅惑の一冊。

『タルト・タタンの夢』に続く、「ビストロ・パ・マル」シリーズ第二弾。
商店街の中にある気取らない小さなビストロを舞台に、鋭い洞察力を持つシェフ・三舟が店に持ち込まれた謎を解くという連作短編集です。
こういう「おいしいもの」×日常の謎の組み合わせは大好物。
今作も7つの短編でお腹を…じゃなかった、心を満たしてくれました。


相変わらずこのシリーズは登場する料理の数々がいちいちおいしそう!
私はフランス料理に詳しくはありません。
それほど食べた経験もないし、フランス語も(大学時代に第二外国語として勉強していたとは言え)超初心者レベルなので、メニュー名だけではどんな料理かよく分かりません。
それでもおいしさが文章だけでしっかり伝わってくるのですから、作者の描写力の高さに感心するばかりです。
今作では特にブイヤベースがおいしそうだなぁと思いました。
そういえば学生時代パリに旅行した時にブイヤベースを食べましたが…どんどん注がれるワインに酔ってしまったため、あまり味は覚えていません。
ああ、せっかく本場のものを食べたのに、もったいない…!
ぜひもう一度、本場まで行かなくても国内のおいしいビストロでいいから、味わいたいと思いました。
それから、タイトルに登場するヴァン・ショーは、クリスマスマーケットの描写と合わせてとても興味深く読みました。
ヴァン・ショーはホットワインのようなものですが、身体が温まりそうなのでぜひ冬に試してみたいです。
とは言え、実際のところは本作で描かれるように、ヴァン・ショーというのは「おばあちゃんの味」だったり「おふくろの味」だったりするんだろうなと思います。
きっと秘伝のレシピを持つ家庭もあるのでしょう。
そういう、高級なフレンチレストランで提供される料理とはちょっと違って、もっと気楽に、気軽に楽しめるフランス料理がたくさん登場するのがこの作品のよいところだと思います。


ストーリーと謎解きの面では、表題作「ヴァン・ショーをあなたに」と「天空の泉」がお気に入り。
どちらも三舟シェフがパリで修行中だった頃の話なので、ビストロ・パ・マルは登場しません。
それでもシェフの名探偵ぶりは変わりなく、その一方では語り手がギャルソンの高築ではないというだけで物語の雰囲気ががらりと変わっていたのが新鮮でよかったです。
ワンパターン化を避けるための工夫なのかなとも思いますが、ビストロ・パ・マルの従業員以外の人物の視点が入ることで、物語に奥行きが出たように感じました。
「ヴァン・ショーをあなたに」のフランスのおばあちゃんのエピソードは心が温まりましたし、「天空の泉」ではちょっとしたミスリードがとても印象的でした。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、思い込みとは怖いものです。


ということで、2作目も飽きずに楽しむことができました。
もう少しこのシリーズを読みたいなと思ったら、少しずつではありますが続編も発表されているそう。
第3作も楽しみにしています。
☆4つ。


●関連過去記事●tonton.hatenablog.jp