tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『三匹のおっさん ふたたび』有川浩

三匹のおっさん ふたたび (新潮文庫)

三匹のおっさん ふたたび (新潮文庫)


剣道の達人キヨ、武闘派の柔道家シゲ、危ない頭脳派ノリ。あの三人が帰ってきた!書店での万引き、ゴミの不法投棄、連続する不審火……。ご町内の悪を正すため、ふたたび“三匹”が立ち上がる。清田家の嫁は金銭トラブルに巻き込まれ、シゲの息子はお祭り復活に奔走。ノリにはお見合い話が舞い込んで、おまけに“偽三匹”まで登場して大騒動!ますます快調、大人気シリーズ第二弾。

ドラマ化もされた、あの「三匹」が帰ってきました!
昔「悪ガキ三匹」として街を騒がせた幼なじみの3人組が、還暦を迎えたのをきっかけに街の安全を守るための夜回りを始めて、ご町内で起こる事件を解決していくという物語の続編です。


今作ではどちらかというと三匹自身よりは、三匹の周りの人たちに焦点を当てた話が多く、前作とは少し雰囲気が変わったように思いました。
個人的にはミステリ要素も少しあり、痛快な捕物劇という感じだった前作の方が好みですが、今作も悪くありません。
今回描かれる事件は、女性ばかりの職場での人間関係、書店で頻発する万引き、ゴミ捨てのマナーの悪さ、地域のお祭りの復活に関するごたごたなど、どこの街にでもあって誰にでも身近に感じられるようなトラブルが題材になっています。
凶悪な犯罪ではなく、マナーやモラルの問題が取り上げられているので、自分自身の問題として捉えやすく、共感しやすい話が多いのではないでしょうか。
実際に私も、「いるいる、こういう人」とか、「こういうことあるなぁ」といちいち自分の経験に照らして読める個所がたくさんありました。
特に、若者でも年寄りでもない、その狭間の年代にいる私としては、「今時の若者は」と思うことも「今時の年寄りは」と思うことも両方あるので、作中の年配者代表のキヨと若者代表の祐希、どちらにも共感できました。
有川さんはこうした細かな日常の問題をすくい上げて、分かりやすく物語の中に組み込むのが上手いなぁと思います。


キヨの嫁・貴子や、シゲの息子・康生など、三匹以外の人物が主役級の存在感を見せる今作ですが、私が一番注目したのはキヨの孫である祐希です。
一見チャラチャラした今時の若者ですが、中身はけっこうしっかりとした芯があって、真っ直ぐな性根の持ち主。
今作での祐希は万引き犯に間違えられたり、偽三匹から因縁をつけられたりと、ちょっと受難続きでしたが、そのたびふてくされたり怒ったりはするものの、大人たちの事情や考えにもちゃんと気を配り尊重しつつ、自分なりに考えて行動しているのが見て取れます。
着実に大人への階段を上り始めているところが随所に見られ、男として頼もしい部分も見せてくれて、その成長ぶりになんだか親目線で感慨深い気持ちになってしまいました。
しっかり者の彼女・早苗(ノリの娘)とも高校生らしいさわやかカップルで、素直に応援したくなります。
ラストでは門出の時を迎えた祐希。
今後の成長も見てみたいなぁと思いました。


ストーリー面では、ノリが見合いをする話が一番好きです。
父親の見合い相手に対して複雑な感情を抱く早苗の気持ちを想像し、胸が苦しくなりました。
見合い相手の満佐子がなかなか個性的で面白い人だったので、すぐに再婚という話にはならないまでも、ちょっとしたお付き合いがこれからも続くと素敵だなぁと思います。
他、書店の万引きの話は本好きとしてやるせない気持ちにならずにはいられませんが、万引き犯を罰するのではなく教え諭そうとする書店主の態度には、私自身も諭されたような気持ちになりました。
康生が三匹たち親世代の力を借りながら、地元の神社のお祭りを復活させるべく奮闘する話では、世代交代のやり方、そして地域活性の方法としてひとつの理想形を描いていて、日本各地にこうしたやり方を参考にできる町があるんじゃないかと思いました。


派手さはないものの、地域密着・生活密着で、庶民にとって非常に身近なストーリー展開が魅力に感じました。
ボーナストラックのスピンオフに有川さんの別作品のあの人がゲスト出演しているところは、有川さんらしいファンサービスですね。
実のところ有川さんの作品はめちゃくちゃ好きというほどではないのですが、それでも定期的に読みたいなぁと感じます。
ストーリーも、登場人物も、それだけ魅力があるということですね。
☆4つ。
ところで、読んでいる間に3か所ほど誤植を見つけてしまいました。
ちょっと多くないかなぁ…。
誤字があるとそこで読書の流れが少し止まってしまうので、重版時には直しておいてほしいところです。


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