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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『背表紙は歌う』大崎梢


作り手と売り場、そのふたつを結ぶために。出版社の新人営業マン・井辻智紀は今日も注文書を小脇に抱え、書店から書店へと飛び回っている。しかし取次会社の社員には辛辣な言葉を投げかけられ、作家が直々に足を運ぶ「書店まわり」直前にはトラブルを予感させる出来事が…。井辻くんの奮闘をあたたかな筆致で描いた、本と書店を愛する全ての人に捧げるミステリ短編集第二弾!

出版社営業マンの「ひつじくん」こと井辻くんを主人公にした連作短編ミステリシリーズ第二弾です。
本好きならきっと楽しめること請け合いのこの作品、2作目も期待通りとても楽しく読みました。


今さら改めて説明するまでもなく、出版業界や書店を取り巻く環境はとても厳しいものです。
一体もう何年「出版不況」が続いているのでしょう。
日本経済全体としては、ようやくデフレからの脱却が見えてきたとも言われますが、出版業界が景気回復の波に乗って好況に転じるかというと…厳しいと言わざるを得ないかと思います。
「活字離れ」と言われて久しいですからね。
景気が回復して庶民の財布の紐がゆるんだとしても、そもそも普段から本を読む習慣がない人が、じゃあ本でも買って読もうか、とはならないでしょう。
この作品でも、出版社と書店を舞台にする以上、そうした厳しい状況を描くことから逃れられるわけはなく、出版社の倒産だとか書店の閉店だとか、1作目に引き続き本好きには悲しい出来事も連続して登場します。


それでも、この作品の良いところは、シビアな現実を描きながらも決して暗いタッチにはなっていないところ。
主人公をはじめとする登場人物たちの個性的なキャラクター設定が功を奏しているとも言えますが、みんな明るく楽しく仕事をしているので、全体的にとても明るく生き生きとした雰囲気なのです。
出版社が違っていても営業マンどうしで情報交換したり一緒に食事をしたり、書店員さんとも飲み会なんかがあったりして、とても仲が良く和気あいあいとしていて楽しそう。
厳しい業界だからこそ、力を合わせて頑張っていこうという連帯感も生まれるのかもしれません。
景気はよくなくても、こんなに雰囲気のよい業界であれば、意外と今後も大丈夫かもしれないな、と思わせてくれて、本好きとしてはなんだかほっとします。


シリーズ1作目『平台がおまちかね』と比べると、さすがにこの2作目では主人公の井辻くんの成長が見られます。
営業マンとしても頼もしさが出てきて、謎解きにも積極的に関わっています。
もちろん他社の先輩営業マン達も相変わらずにぎやかに物語を盛り上げてくれています。
新キャラ(レギュラーではないでしょうけど)では、第1話の「ビターな挑戦者」に登場する取次の社員で、その名も「デビル大越」が強烈なキャラクターで強く印象に残りました。
あとは表題作「背表紙は歌う」に出てくる営業ウーマンの久保田さんは、そのキャラクターも、物語中における細かいエピソードも全部好きです。
こういう人と一緒に仕事をしてみたいなぁと思わせる、できるお姉さんですね。
また、最終話の「プロモーション・クイズ」には大崎さんのもう一つのシリーズ作品からあの人がゲスト出演していて、ファンサービスも抜かりないのが素敵です。


ストーリー面では、ある話題の文学賞の発表までの日々を描いた「君とぼくの待機会」が個人的に興味深く感じました。
おそらく直木賞をモデルにしていると思うのですが、ノミネート作発表から受賞作発表まで、出版社や書店ではこんな感じでそわそわした雰囲気なんだなというのが分かって楽しかったです。
謎解きはそれほど凝ったものはなく、どちらかというとあっさり風味ですが、この作品は業界裏話的な部分と、お仕事小説としての側面が面白いので問題なし。
3作目は今のところまだ刊行されていないようですが、井辻くんのさらなる成長を見てみたいので、ぜひ書いてほしいなぁと思います。
☆4つ。


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