tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『仮面病棟』知念実希人

仮面病棟 (実業之日本社文庫)

仮面病棟 (実業之日本社文庫)


療養型病院に強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。事件に巻き込まれた外科医・速水秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る―。閉ざされた病院でくり広げられる究極の心理戦。そして迎える衝撃の結末とは。現役医師が描く、一気読み必至の“本格ミステリー×医療サスペンス”。著者初の文庫書き下ろし!

作者である知念実希人さんのことを知ったのは、ツイッターでご本人からフォローされたことがきっかけでした。
作家さんとこんな出会い方をしたのは初めてです。
知念さんのツイート内容がなかなか面白かったので私もフォローバックしてツイートは拝見していましたが、著書を読む機会はないままでした。
今回書店で本書を見かけて、帯の文句と巻末の解説をちょっと立ち読みして、購入決定。
ツイッターでは時々このような思わぬ出会いがあって面白いですね。


知念さんは現役のお医者さんでもあります。
医療×ミステリというと、やはり思い浮かぶのは「チームバチスタ」シリーズの海堂尊さん。
ですが、海堂さんとはかなり作風が異なり、この『仮面病棟』は医療の面よりはミステリの面の方に重きを置いた作品です。
もちろん、舞台が病院であり、事件に巻き込まれるのが医者や看護師だったり、治療の場面が出てきたりして、その中で使われている用語や細かい描写などに、現役の医師としての知念さんの持ち味はいかんなく発揮されています。
舞台が普通の病院ではなく、身寄りのない患者たちを長期入院させている療養型の病院だという設定も、そしてその設定を生かした事件の真相も、お医者さんならではの発想なのだろうなと思いました。
とは言え専門用語が連発されるというようなこともなく、治療の場面も生々しい描写は極力排除されていて、素人の読者にも安心の読みやすさです。


謎解きについても、強盗犯が病院に押し入って、そこにいた医療スタッフや入院患者を人質に取るという非常にシンプルな事件の構図が、とても読みやすく感じました。
登場人物(というかメインの人物)が少ないので、黒幕的な人物がいるとしたらあの人しかいないだろうと、消去法的に分かってしまった部分もありますが、それによってミステリの面白さが完全に損なわれるということもありません。
何を考えているのか分からない強盗犯と共に閉鎖空間で一夜を過ごすという状況はやはりサスペンス性が高く、ハラハラさせられますし、少しずつ明らかになっていく舞台の病院の「裏の顔」にぞっとさせられました。
ひとつだけそんなことが可能なのだろうかと首をひねったところもありましたが、全体的には伏線もしっかり回収して、無理のないロジックで最後まできれいにまとまった作品だと思います。


まだまだ作家としてのキャリアを積み始めたばかりの知念さん。
あの島田荘司さんに認められた本格ミステリ作家として、今後の活躍が期待できます。
他の作品も読んでみたいと思いました。
☆4つ。
ところで巻末の解説で法月綸太郎さんが書かれていた、本書から連想される「某ミステリー作家が1990年に発表した某長編」って…もしかして私も大好きなあの作家さんのあの作品かな?
ずいぶん前に読んだので、内容は忘れてしまいましたが…。