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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『街角で謎が待っている がまくら市事件』


ここ蝦蟇倉市では、不可能犯罪がよく起こる。廃墟や神社に死体を隠す少女、互いに秘密を抱えたまま無人の球場で会話する高校生、そして事件を追って街を訪れるルポライター。高台にあるレストランで、古書マニアが住むアパートの一室で、森の中の美術館で―。この街で起こる事件は、仕掛けと遊び心に満ちている。架空の都市を舞台に同世代の人気作家が競演する「街」の物語。

「がまくら市事件」第2弾。
不可能犯罪を引き起こす「磁場」があると言われる蝦蟇倉市を舞台に、6人のミステリ作家がそれぞれの持ち味を活かした物語で競演する短編集です。
第1弾同様、すべて同じ街を舞台にし、共通する人物が登場する話でありながら、書き手によって味わいが異なっていて、いろんなタイプのミステリを楽しめました。
それでは各作品の感想を。


「さくら炎上」北山猛邦
2人の女子高生を主人公に据えたホワイダニット(動機の解明に焦点を当てたミステリ)作品。
まさかこんな動機で!?と思わなくもないけれど、少女たちの切実な思いが胸に沁みます。
ラストシーンも非常に抒情的で強く印象に残りました。
主人公たちの「その後」が気になります。
続きが読んでみたいなぁ。


「毒入りローストビーフ事件」桜坂洋
ミステリファンならタイトルから推測できる通り、バークリーの『毒入りチョコレート事件』へのオマージュ作品です。
蝦蟇倉市内のとあるレストランで起こった殺人事件について、その現場に居合わせた大学の同窓生である3人の男女が、誰が犯人なのかについて、それぞれの推理を披露します。
それなりにすべての推理に筋が通っていて、どの推理が正解でもおかしくないと思えますが、はてさてどれが真実なのか、はたまた真相は全く別のところにあるのか…。
登場人物も全員個性的で、会話のかけあいが面白かったです。


「密室の本――真知博士 五十番目の事件」村崎友
大学の不可能犯罪研究会に所属するカップルが、同じ大学の先輩から謎解きを持ちかけられる話。
タイトル通り、アンソロジー第1弾で登場した真知博士が再び関わってきます。
もちろん真知博士は探偵役なのですが、今回はちょっと微妙な立ち位置。
結末がなんとも印象的で、これも主人公たちの「その後」が気になりました。


「観客席からの眺め」越谷オサム
高校生の男女が主人公の青春ミステリ…かと思いきや、なかなか陰惨な話でした。
あの話題作『陽だまりの彼女』の作者ということで、爽やかな感じなのかと思って読み始めたら全く予想もしないダークな方向へ話が進んでいったのでびっくり。
いい意味で予想を裏切られました。
こんな話も書かれる作家さんだったのですね。
とはいえ、ラストに漂う切ない余韻は『陽だまりの彼女』とも共通するなと思いました。


「消えた左腕事件」秋月涼介
再び真知博士が登場し、美術館で起こった不可解な事件の謎を解いていきます。
この作品も村崎友さんの作品と同じく、真知博士の立ち位置が単純な探偵役ではなくなっています。
そんな話が続くと、真知博士が優秀な探偵なのかどうなのか、なんだかよく分からなくなってきました。
また、他の作品でこれまで何度か登場し、胡散臭さを醸し出していた新興宗教団体「十王還命会」が、この作品で決定的な「クロ」であることが明らかになり、結果的に他の作品がこの作品の結末につながる伏線になっているのが面白いと思いました。


「ナイフを失われた思い出の中に」米澤穂信
米澤さんの作品『さよなら妖精』に登場した太刀洗万智が大人になって再登場し、ある事件の真相を解明します。
実は『さよなら妖精』は私が一番好きな米澤作品で、このアンソロジーを読むことにしたのも、半分は米澤さんのこの作品が読みたかったからという理由でした。
さよなら妖精』を読んだ者にとってはうれしい要素がいくつか見受けられ、改めて大好きな作品だと思えました。
ちょっとこのアンソロジーの中では他の作品とトーンが違うというか、蝦蟇倉市を舞台にする必然性はあまりないようにも思えましたが、個人的には読めてとても満足でした。


未読の作家さんはもちろん、既読の作家さんの作品でもちょっとイメージが変わった部分もあったりして、アンソロジーならではの楽しさがありました。
また、やっぱりミステリが好きだなぁということも再認識。
これからもどんどんいろんなミステリを読んでいこうと思いました。
☆4つ。


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