tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾


悪事を働いた3人が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。廃業しているはずの店内に、突然シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてきた。時空を超えて過去から投函されたのか?3人は戸惑いながらも当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書くが…。次第に明らかになる雑貨店の秘密と、ある児童養護施設との関係。悩める人々を救ってきた雑貨店は、最後に再び奇蹟を起こせるか!?

2014年最後の読書は安定の東野圭吾作品。
さすがに気分よく読み終わらせてくれました。


「ナミヤ雑貨店」という店名をもじって「ナヤミ雑貨店」と子どもたちに揶揄されたことをきっかけに、本当に悩み相談を始めた店主。
どんな悩みも解決してくれると評判になったナミヤ雑貨店には、ふざけ半分のものから真剣な人生相談まで、さまざまな相談事が寄せられます。
やがて雑貨店は閉店し、店主は亡くなり、店舗は廃屋となりますが、時を超えて手紙のやり取りがなされるという奇跡が起きます。


章ごとに異なる人物の視点で物語が語られていきます。
各章に登場する悩み相談に関するエピソードも全部気持ちよく読める話ばかりで、それぞれ単独で読んでも十分楽しめるクオリティです。
ですがやはりこの作品は最後まで通して、一つの長編小説として読んでこその物語だと思います。
最初のうちはバラバラだった各章のストーリーが、やがてある章の人物が別の章の人物と結びつき、ある章の相談者のその後が他の章で明らかになり――というふうにどんどんつながっていき、一つの大きな「奇蹟」が姿を現します。
ちょっとつながり方がきれいすぎるというか、うまくつながりすぎな印象はありましたが、すべての人物・できごと・相談事がナミヤ雑貨店を軸に展開しており、最終的に一本の糸のようにつながるさまは感動的でした。


物語の舞台となる時代は、1980年代から東日本大震災後までと幅があり、それによる時代背景の違いがきちんと描かれているのも興味深いと思いました。
たった20年前にはまだインターネットも携帯電話もなかった(少なくとも庶民が存在を知っているほど一般的なものではなかった)のですから、この20年の間に社会もテクノロジーもなんと大きく変化したことかと改めて感心する思いでした。
また、個人的にもこの作品で流れる時間は私の人生のほぼ全てと重なっていることから、なんだか特別な感慨が沸きました。
昭和天皇崩御バブル崩壊を経て、阪神淡路大震災オウム事件東日本大震災――と振り返ってみると、案外自分は激動の時代を生きているのではないかと思えます。
そうした時代の変化の中で、人々の悩みはそれほど大きく変わっていないのではないかと思いました。
どの時代に生きていても、生きづらさや自分の置かれた環境への不満はあるものです。
でも、悩むことは悪いことではない。
大事なのは自分の信じた道を、勇気を持って進んでみることなのだろう、とナミヤ雑貨店店主による最後の回答の手紙を読んで思いました。


時間を超えた手紙のやり取りという設定にロマンがあり、そのアナログさに郷愁も感じられて、じんわり心があたたかくなりました。
そういえばナミヤ雑貨店での初期の悩み相談のやり方(相談事とその回答を書いた紙を貼り出す)は以前話題になった「生協の白石さん」っぽいなと思いましたが、ヒントにされたのでしょうか。
そのうちどこかでドラマ化などされそうな作品だなと思いました。
☆4つ。