tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『PK』伊坂幸太郎

PK (講談社文庫)

PK (講談社文庫)


彼は信じている。時を超えて、勇気は伝染する、と――人は時折、勇気を試される。落下する子供を、間一髪で抱きとめた男。その姿に鼓舞された少年は、年月を経て、今度は自分が試される場面に立つ。勇気と臆病が連鎖し、絡み合って歴史は作られ、小さな決断がドミノを倒すきっかけをつくる。三つの物語を繋ぐものは何か。読み解いた先に、ある世界が浮かび上がる。

伊坂幸太郎さんは好きな作家のひとりで、作品が文庫化されたら必ず買って読んでいるのですが、文句なく面白いと絶賛できるものもあれば、「なんだかよく分からない……」となってしまうものもあります。
今回の『PK』は後者。
面白くなかったわけではないのですけれども。


本書には「PK」「超人」「密使」の3つの中編が収められています。
まず「PK」を読んで、結末がついたようなついていないような微妙な終わり方にもやっとなりながら「超人」を読むと、何やら「PK」と同じような登場人物、同じようなモチーフ、同じようなできごとが続々登場。
なるほど、連作になっているのかな?と思いながら読み進めると、なんだか「PK」とは微妙に異なる点があることに気付きます。
ん??どういうことだろう?とさらに読み進め、「密使」を読んでようやく「PK」と「超人」との若干中途半端にも思えるつながり具合の謎が解けるという構成になっています。
とても面白い趣向だとは思うのですが、いかんせん分かりにくいのが難点。
一度読んだだけですべてを理解するのは困難なのではないかと思います。
しかも、決してすべての謎が明かされているわけではなく、はっきりしない部分も残されています。
こういう「読者ひとりひとりの解釈にゆだねる」という形式、嫌いではないのですが、読後感としてはやはりきれいに謎が解けるカタルシスが感じられる方が、私は好きだなぁと感じました。
このような表現方法はもちろんありだと思いますが、どうもすっきりしない感じが残ってしまうのが好みではありません。


ミステリというよりはSF色が強かったのも、私にとって分かりにくかった理由の一つだと思います。
SFはあまり読み慣れていないため、タイムパラドックスの話など頭では理解できているつもりでも、それがこの作品にとってどういう意味合いを持っているのかという点がなかなかつかめませんでした。
巻末に収録されている大森望さんの解説を読んで、ようやくそういうことかと合点がいきましたが。
ただ、超能力というか、特殊能力の部分はなかなか面白く読めました。
「超人」に登場する、未来が見えるという男の話。
「密使」に登場する、握手をした相手から時間を盗むことができるという男の話。
どちらもいまひとつ役に立つ能力なのか微妙なところで、むしろ厄介な能力なのでは?と思うところもあり、そういうなんとなく「小物」っぽさのある能力者というのが伊坂作品の登場人物らしいなぁと思ったのです。
そして、そういう地味な能力者たちが、意外な形でヒーロー的な活躍を、本人もそれと分からないままに遂げるというのがこれまたいかにも伊坂作品らしいな、と。
特にかっこいいわけでも、派手なアクションをするわけでも何でもないのですが、それでもこの作品の中では確かにヒーローの役割を果たしていて、なんとも愉快な気分にさせてくれました。


他にも、伊坂さんのエッセイを読んで伊坂さんがいかに想像力が豊かなゆえに心配性であるかを知っている読者としては、「PK」に登場する心配性の作家は伊坂さんご自身が投影されたキャラクターなのではないかと思えて、思わずにやり。
そんなふうに楽しめた部分もあっただけに、もう少し分かりやすい物語ならもっと面白かっただろうなと思ってしまいます。
もちろん私の読解力の問題であることは重々承知の上ですが。
実験的な要素があるので人を選ぶ部分があるのは確かだと思います。
私には合わなかったようで残念。
☆3つ。