tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ウィンター・ホリデー』坂木司


元ヤンキーでホストだった沖田大和の生活は、小学生の息子・進が突然に夏休みに現れたことから一変。宅配便のドライバーへと転身し子供のために奮闘する。そして冬休み、再び期間限定の親子生活がはじまるが、クリスマス、お正月、バレンタインとイベント盛り沢山のこの季節は、トラブルも続出で…。

『ワーキング・ホリデー』に続く「ホリデー」シリーズ第2弾。
元ヤンキーでホスト、そして現在は宅配便の配達員として働く沖田大和と、その小学生の息子・進。
今は離れて暮らす父子が、冬休みに再会し、さらに絆を深めていく様子を楽しく描いた作品です。


前作もほっこりあたたかい気持ちになれる作品で、坂木司ワールド全開!という感じだったのですが、今作も安心のクオリティ。
大和の父性愛はもはや爆発しているし(笑)、進が大和を慕いつつ、なかなか素直になれない部分もあったりするところがとても愛おしくてけなげで和みます。
前作以上に「愛」をいっぱい感じる内容……と言うか、大和と進の関係が父子のそれよりは付き合いたてのラブラブカップルのようで、読んでいてキュンキュンしてしまいました。
大和が元ヤンキーかつ元ホストという男らしさを追求していたような男である一方、進が家事万能で世話好きなお母さんっぽい子だというところが、よけいに2人の関係を男女の関係っぽく見せています。
とは言えもちろん怪しげな話ではなく、しっかりと親子関係を描いた物語なのですが。
進の年齢でここまで父親が好きという気持ちが前面に出ている子どもはあまりいないんじゃないかと思いますが、それはずっと父親の存在を知らないまま育ち、今も一緒に暮らしていないからこそなのかと考えると、少し切ない気持ちも沸きあがってきます。
でも、一緒にいられなかった時間を取り戻すかのようにいろんな思い出を作っていく大和と進の様子を読んでいると、こんな親子関係もいいよねと思えて、なんだかこちらも幸せな気分になれるのです。
「ウィンター・ホリデー」と言っても学校の冬休みだけでなく、一冬を通して描いているので、クリスマスがあって、年越しとお正月があって、バレンタインデーがあって…とイベント盛りだくさんで賑やかな雰囲気が、読んでいてとても楽しかったです。
まだまだ「お父さん業」に慣れていない大和が、クリスマスプレゼントのことやお年玉のことなどで戸惑ったり悩んだりちょっと失敗したりする姿に微笑ましさを感じました。


そしてさらに物語を盛り上げ、賑やかにしてくれるのが、個性豊かな脇役たちの存在。
大和をホストとして鍛え上げたママ・ジャスミン、同僚ホストだった雪夜、ホストクラブの常連客・ナナ。
3人とも、それぞれの人生や生き方がにじみ出るようなセリフが深くて、とても魅力的な人たちです。
もちろん大和の現在の勤め先である「ハチさん便」のボスや同僚たちもいい人たちばかり。
今作初登場で、大和にとって初めての後輩となったアルバイトの大東も、チャラチャラした若造ではあるものの、大和と進の親子関係を気遣ったりする優しい側面もあって、憎めないキャラクターです。
それから、ついに本格的に(?)登場し、大和と再会を果たすことになった、大和の元彼女であり進の母親である由希子。
大和の回想からおとなしい感じの女性を想像していましたが、その予想はいい意味で裏切られました。
さすがヤンキーと付き合っていただけあって、けっこう肝の据わったところもある、強い女性だなと感じました。
わりと好きなタイプのキャラクターだったので、もう少し由希子の登場するエピソードを読みたいと思いました。
続編でも番外編でも何でもいいから、期待したいところです。


ラストは絵に描いたようなハッピーエンドで、読者の期待を裏切りません。
親子っていいな、家族っていいな、仲間っていいなと思わせてくれるストーリーに、やさしい気持ちになれました。
大和の一人称の語りがほどよい軽さで、非常に読みやすい作品です。
☆4つ。


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