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『ソロモンの偽証 第II部 決意』宮部みゆき

ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)


あたしたちで真相をつかもうよ――。二人の同級生の死。マスコミによる偏向報道。当事者の生徒たちを差し置いて、ただ事態の収束だけを目指す大人。結局、柏木卓也はなぜ死んだのか。なにもわからないままでは、あたしたちは前に進めない。そんな藤野涼子の呼びかけで、中学三年生有志による「学校内裁判」が幕を上げる。求めるはただ一つ、柏木卓也の死の真実。

事件の連続でハラハラドキドキさせられた第I部。
第II部は、全ての事件の発端となった柏木卓也の死の謎を解明するべく、柏木の元同級生である藤野涼子が学校内裁判を行うことを呼びかけ、それに応えて集まった3年生たちが裁判の準備に奔走する姿を描いています。
登場人物がさらに増えていますが、人間関係が過度に複雑になるということはなく、新たに明らかになった事実や新たな関係者の登場で、一連の事件の背景がさらに広がりました。
読者としても、柏木卓也の死の真相は何だったのか、同級生たちは真実にたどり着けるのか、学校内裁判の行方はどうなるのかと、興味をかきたてられ、第I部に引き続きページを繰る手が止められません。


個人的に第II部で一番面白く読んだ部分は、学校内裁判における「被告人」である大出俊次の変化でした。
札付きの不良で、乱暴者で、いじめっ子で、だからこそ嫌われ者で、今回の事件において「犯人」扱いされても弁解の機会を与えられなかった大出。
学校内裁判の目的は、一番は柏木の死の真相(自殺だったのか、事件だったのか、事故だったのか)を明らかにするということですが、もう一つは大出をはじめとする、不当な疑惑をかけられた人物の名誉を回復することでもあるのです。
最初は反抗的な態度だった大出が、そうした裁判の目的を知り、言いだしっぺの涼子をはじめとする裁判関係者たちの話を聞いて、少しずつ心を開いていく様子がとても印象的でした。
先生や警察もずっと手を焼いていた問題児・大出が、同じ中学生の力で変わっていくことに、なんとなく痛快さのようなものを感じました。
もしかすると、「不良」と呼ばれる子の更生のヒントがここに描かれているのかもしれないなぁ、と。
大人は世間体だとか大人同士の関係だとかに振り回されたりしますが、そんなよく分からない「大人の事情」に関係のない子どもたちだからこそ大出に心理的に近づけたのでしょうし、大出も大人には不信感があっても、自分と同じ目線を持ちうる子どもには信頼感を抱きやすかったのだろうと思います。
そういう意味では涼子たちが学校内裁判に立ち上がったことは正しかったし、大出に変化をもたらしたという時点ですでにこの裁判は半分ほどは成功したと言えるのではないかと思いました。


新たな登場人物の中では、大出の弁護人を買って出た他校生・神原和彦がどうにも気になります。
大出以上に複雑な家庭環境の中で育った和彦には謎めいた部分も多く、検事を務めることになった涼子とは立場が違うだけではなく、裁判を通して得ようとしているものも違うような感じがします。
彼が秘密にしている部分は、きっとこれから裁判が進む中で明らかになっていくんだろうなと思いますが、もしや彼こそが柏木卓也の死に何らかの形で関わっているのではないかという疑念が頭から離れません。
その想像が当たっているにしろ外れているにしろ、これから結末に向けて一番の注目人物であることには間違いないと思います。


第II部のラストでは思いがけない大事件も起こり、学校内裁判に向けてどんどん物語が盛り上がっていくのが感じられました。
裁判を実際に傍聴しているような気分で、その行方を最後まで見届けたいと思います。


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